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莫根 隆一 氏

プロフィール

都城市出身、鹿児島大学医学部を卒業後、第1外科に入局。

1989年4月に高原町立病院に着任、10月より院長として病院改革とスタッフ教育に臨み、在宅医療の取り組みを開始。また、人間ドック受診を推進し、予防医療推進の旗振り役となり「早期発見・早期治療」を地域住民に提供し続けている。

【認定医等】
日本外科学会認定医、日本消化器外科学会認定医、日本医師会認定産業医、日本消化器内視鏡学会専門医、人間ドック健診

早期発見・早期治療が患者の負担を減らす
莫根氏1

鹿児島大学医学部を卒業後、第1外科に即入局。はじめの研修病院として、鹿児島県立大島病院を選ぶ。鹿児島市から南へ350キロの奄美大島。離島の医療がキャリアのスタートだった。

「離島ですから、その地域の医療の最終地点で、医局の先輩たちが最後の砦となって頑張っていた病院でしたから、自分も行ってみたいという思いがありました。当時の癌の手術は拡大根治が主流で、癌細胞を取りきるために、たくさんの臓器や組織を取りましたので、術後の合併症も心配で、主治医としての責任から、当直でなくても病棟に泊まり込むことが多かったです。なにより先輩たちが、みんな病院から帰らないんですよ。外科はどこもそんな感じだったと思いますが、医局の雰囲気もざっくばらんで楽しくて、苦しいと感じたことはありませんでした。」

その後も医局の派遣で、ほぼ1年毎に各地の病院を転々としながら、外科医として手術の日々。そんな中、野田町立病院(鹿児島県出水市、現在は野田診療所)での勤務がターニングポイントとなった。

「松下先生という院長がいましてね。朝の7時から胃カメラ検査をするんです。7時きっかりに開始です。朝の外来の診察の前に毎日10数名分の検査を済ませてしまう。」

そこで印象に残ったのが、患者さんの屈託のない明るさだったという。

「外来の患者さんがお互いに普通に癌手術の話をしているんですよ。30年ぐらい前ですと、医師も告知をためらう、患者さん自身も癌であることも隠しているような時代ですから、意外というか不思議な光景でした。」

その疑問が氷解するのに、時間はかからなかった。

「カメラだったらその場で診断が付きますから、癌を早く発見できれば、潰瘍と同じようなレベルの手術で済む。そのための検査なのです。患者さんからすると、助かることが分かっているから『私は胃癌だった』と人に言えるわけで、助からないと思うから人に言えなくなる。この取り組みは強烈なインパクトがありました。」

平成元年に高原病院に赴任して早々、人間ドックの導入を推し進める。

「まず、住民に受診してもらわなければ始まりませんので、地区座談会から始めました。2年間で15回。もちろん一人ではできませんので、役場の町民課の方や保健師さんに協力を仰いで、日中の診療が終わって、夜になってから、みんなで人間ドックを受診するよう説いて回りました。町長の理解があったからこそだと本当に感謝しています。」

検査機器や技師など投資も必要だったが、当初から行政と一緒に取り組んでいたため、機器の購入予算もすんなりと通るようになっていた。現在では住民の理解も進み、受診率も右肩上がりの成果が出ている。

「とにかく早く見つければ、早く治療できる。重症化しなければ、結果的に全体の医療費の削減につながるのです。」

地域医療ならではの挑戦
莫根氏2

次なる病院改革は、在宅医療の推進だった。来た当初は、50床のベッドが満床で、受け入れができないという状態だった。

「大した病気じゃないのに、病院を生活の場にしている患者さんも少なからず居ましたので、入院時と同じ医療を提供するから、家に戻りましょう、と説得しました。」

在宅医療の専属スタッフを入れて、定期的な往診を実施。最終的には人工呼吸器をつけた植物状態の患者も自宅で診れるまでの体制を整えた。

「介護者がいるというのが条件ですが、極力自宅に帰すようにしています。」

平成12年から介護保険制度が始まり、在宅医療を取り巻く状況も大きく変わってきた。

「患者本人も家族も、施設への入所を好むようになってきたんですね。平成10年頃までは100件近くの在宅医療を行っていたのですが、今は16人にまで減りました。当時は仕事を辞めて自宅介護をしなければという風潮がありましたが、今は患者も家族も、介護サービスを利用することに抵抗がなくなってきています。ケアに行けば、送り迎えもあるし、友達もできて、生活に張りが出て、患者さんも家に閉じこもりにならずにすみますよね。家族の負担を分散するためにも積極的にデイケアを利用するように勧めています。」

予防医療についても工夫している。誤嚥性肺炎で入退院を繰り返す患者さんが多いということに気付き、その予防法として口腔ケアに力を入れた。

「平成21年から、お口をきれいにしましょうと看護師をメインに口腔ケアチームを作りました。口腔内が汚いと、寝ている間に常在菌が入って肺炎になるんですね。入院時から退院後までのケアプログラムの作成から始まり、外来でも訪問看護でも指導するようにしました。成果を論文で発表したところ、全国国保地域医療学会で優秀賞として表彰され、看護師さんたちもすっかり自信をつけて、患者さんやその家族、介護士、栄養士、理学療法士と一緒に介護教室を開いています。院外でも、秋祭りの健康フェスタに参加して口腔ケアをPRしています。」

勤め人が通院しやすいように「夕暮れ診療」を始めたのもこの頃。通常17時15分に終わるところを1時間延長して、夜間料金を取らずに通常診療を行っている。

「18時15分まで時間外加算のない通常診療を行いますので、仕事や学校を休まなくてよくなり、外来の患者さんに喜ばれています。日に5~6人の利用がありますね。その分看護師さんたちや検査部門には負担を掛けていますが、患者さんのためを思えばこそですので、みんなが協力してくれて感謝しています。」

ナースキャップを外して
莫根先生とスタッフの皆さん

月に2回、勉強会を実施している。外部の研修や学習の報告会から、院内の委員会からの報告、病棟からの感染予防の啓発、時には経営状態の説明なども、とにかくありとあらゆる問題を部署の垣根を越えて話し合う。意思決定のスピードが劇的に上がり、各部署の業務への興味と理解が深まり、互いの思いやりも生まれた。

「最初は毎週1時間、事務方からパラメディカルに至るまで全部署の参加を義務付けました。不満があれば言ってください、病院としての決定までここでしましょう、と。そのひとつに『ナースキャップを外す』という試みがありました。これは面白かったです。」

訪問看護の中で、車の乗降で外れたり、病棟でも点滴を引っかけてしまったりと、また院内感染の原因になるのではという懸念もあり、ナースキャップを外すことを提案した。最近でこそ、実務や衛生上の問題で廃止している病院が大半だが、当時は先駆的な試みだった。

「平成7年頃でしたが、宮崎県内でナースキャップを外している病院はなかったですし、全国でもあまり例がなかったと思います。看護学校で戴帽式を経験している看護師さんたちにとってはシンボルですから反対する気持ちも分かります。私と在宅医療の看護師さんたちだけが外す方向で、あとは全員反対でしたので、ずいぶん討論しました。誰が看護師だかわからなくなるといった不安の声も上がりましたので、事前と事後に患者さんへアンケートを取り、外来の看護師さんたちから検証を始めて徐々に病棟へと浸透していきました。」

在宅医療について患者や家族にとってどのように死を迎えるのがいいのかを真剣に議論したこともあった。死の瞬間は、家族だけがいいのか、看護師がいたほうがいいのか、医師もいるべきか、などをヒアリングを重ねた。

「家族が外出していて、死因がわからない場合は検死も必要になったりしますから、在宅死は悩ましい問題もありますね。専任とはいえ、医師や看護師の数は限られていますので、訪問看護で1~2時間掛かることもあります。病院としては、いざとなったら24時間受入れますよという約束で、在宅医療を推進していますので、患者さんやご家族にとって一番良い方法を採れれば良いと思います。」

平成23年の新燃岳噴火の際は、看護師や薬剤師が昼夜を問わず避難所でのボランティアに自主的に参加し、保健所と連携して体調管理や健康相談に尽力した。住民との信頼の絆も強い。

莫根氏3研修医へのメッセージ Slowly and Steadily!!

この地で人間ドックと在宅医療を始めて今年で26年になります。救急や入院される方、一般外来も含め、長期間のお付き合いの中で地域の皆さんとの信頼関係を築いてきました。ハイレベルな医療スタッフにも恵まれ、仲間の信頼にも応えていきたいと思っています。信頼を得るのは何よりも「誠実さ」です。

高原病院では、常勤医が消化器の専門で、内視鏡の器具も最新のものを揃えています。循環器や呼吸器もベテランの専門医が来ていますので、専門領域を学ぶことができます。非常勤の当直体制が整っていますので、月に1~2回でフリーな時間も確保できます。在宅医療に関しては年季が入っていますので、本気で包括ケアを学びたい人は、実態と、利点も問題点も含めて本音を聞くことができます。行政の理解も深く、恵まれた環境です。

患者さんから感謝の言葉を聞くのが、本当に医者になってよかったと思える瞬間です。ゆっくりと時間をかけ、知識と経験を着実に重ねて、患者さんに信頼される医師を目指してください。

最後に先生にとっての医療とは?

患者さんへの誠実な対応をこころがけています。 国民健康保険高原病院 院長 莫根隆一氏

宮崎県地域医療支援機構(事務局:宮崎県医療薬務課)
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