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木下 裕介 氏

プロフィール

新潟県出身。2005 年、宮崎大学医学部卒業後、地域医療振興協会臨床研修センター神奈川県横須賀市立うわまち病院で2年間の初期研修。2007年からはJA長野厚生連佐久総合病院にて農村医学のマインドとスキルを磨く。2012年に美郷町国民健康保険西郷病院に赴任。

志ひとつ
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木下医師が地域医療に興味を持ったのは、大学5年生の夏休みの東北旅行で1週間ほど青森県の東通村診療所に実習として滞在したことがきっかけとなった。医師が二人だけの診療所で、外来患者の受付や、患者の自宅を往診、併設してある介護老人保健施設の回診に付いたりと、初めてへき地での医療活動を体験した。

「地域の生活を体験させるという診療所の方針もあって、近隣のお宅に泊めていただいて、地域の消防団だというご主人とご家族と夜御飯を食べ、お酒を飲みながら、そこで暮らす人の生の声が聞けたんですね。その中で、診療所のお医者さんにすごく感謝しているというようなお話が一番印象に残っています。それまでの大学病院でのベッドサイドの実習では味わえなかった強烈な経験でした。」

医学生時代は、特にどの診療科に強い興味を引かれるということもなく、医師になるという志は変わらないものの、いまだ将来像が見えない時期でもあった。旅行ついでの実習がきっかけではあったが、ひとつの出会いが、地域の中に入って生活をともにする地域医療への想いを深めていった。

「卒業時には、いずれへき地の診療所で働くことは決めていたので、地域医療振興協会グループの病院を初期研修先として選びました。研修プログラムは、3ヵ月間へき地でみっちり研修ができるというカリキュラムでしたので、まさに自分の進みたい方向で迷いはなかったです。」

その後、長野県の佐久総合病院へ後期研修医として赴任する。

「佐久総合病院は、これから地域医療に進むのであれば、一度は見ておいた方がいいなと思っていました。医師だけではなく、看護師や技師、ソーシャルワーカーまで含め、コメディカルの意識も高い病院で、患者さんの家族が家で看たいというなら、どうにかしてその環境を整えられるよう考えて、出来る限りのサポートをする体制が整っていました。そういうマインドとシステムが、伝統として息づいている場所でしたね。」

人脈は人生の宝
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充実した環境で地域医療のマインドとシステムを学びつつ、自らもどこかへき地の診療所で働きたいと探していた。

「佐久病院で働いている中で分かったことの一つとして、へき地でやっていくにしても、病状によっては大きな病院に紹介したりだとか、逆に、大病院から地域に戻って診療を継続する必要のある患者さんもいるので、専門家との連携の必要性というのを身を持って感じました。6年間過ごした宮崎であれば、先輩なり同期なり後輩なり知った顔が多く、患者さんをお願いしたりされたりする上で有益なコミュニケーションが取りやすいと考えていて、その頃から宮崎のへき地の病院で働くというのが選択肢の一つにありました。」

そんな折、県主催の医師交流会で西郷病院の金丸総院長と出会った。美郷町の住民との絆を大切にしながら長年に渡る取組みの講演内容に共鳴した。「学生の頃は、この西郷病院の存在を知らなかったんですよ。金丸先生のお話も、自分のやりたい医療と一致していて、見学に来てすぐに決めました。」

美郷の村を守る
診療風景

赴任して3年、お昼を取る時間もないぐらいの多忙な日々を過ごしている。外来に入院患者に救急、透析も担当している。医療の需要に対してマンパワーはぎりぎりの状況。それでも果敢に在宅医療に取り組もうとしている。

「佐久と比べてなんですが、在宅の数は一桁台と少ないです。老人の一人暮らしや、老夫婦二人の世帯も増えていて、地域にコミュニティバスは通っているものの、バス停まで行けない高齢者もいらっしゃいます。在宅医療のニーズは今後増えると思いますが、社会的なシステムも整っていないですし、住民の気持ちとしても家で看るということが浸透していないという印象ですね。」

一方で、村が存続していくためには、若い世代の定着が必要と語る。村自体が衰退して最終的には消滅する可能性すら有り得る。

「子供たちや若い人たちにとって、どれだけ住みやすい場所にするかで、市町村の生き残りがかかってくるのでは。医師としては、彼らが安心して暮らせるようにすること。病気で診察に来た時に、小児科専門の受診を勧めるのか、ここでお薬を出すぐらいで済むのかの判断や、健診や予防接種など予防医療の啓発活動で、少しでも若い人たちが住みやすくなるよう貢献したいと思っています。村の将来には高齢者対策と若者対策、どちらも大事ですよね。」

 

患者一人ひとりと直にコミュニケーションが取れる規模の病院で、お互いに顔が見える医療がしたいというのが、もともと理想としていた環境である。これからの地域医療のあるべき姿を、どのように描いているのだろう。

「病院が小規模なので、気心の知れたスタッフ同士、ある程度性格も分かっていて、お願いもしやすいです。スタッフも患者さんの性格や家族を良く知っていて、だれに相談すればいいとか、患者さんの生活状況や歴史まで知っていますので、全体を見て医療を進めていけるのが地域医療の面白いところです。患者さんの普段と違う異常に気付くには、普段の様子が分かっていないとできないことですし、ちょっとした変化や家族の背景までマネジメントすることで、患者さんにとって最適な医療が提供できますし、私たち医療の提供側にとっても、それが一番の醍醐味かなと感じます。」

在宅医療の推進と地域医療の継承
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社会全体も、ゆくゆくは在宅医療にシフトしていかざるを得ない状況で、いずれ病院も高齢化社会のニーズに合わせた体制を築いていくことが必要になる。

「まだマンパワーやシステムの面で、すぐに在宅中心にというわけにはいかないのですが、家で過ごしたいという患者さんや、家で看たいという家族がいた場合には、スタッフの間でもいろんな気付きや、病院の改善アイデアが出てくるかもしれませんし、往診する姿を近所の人にも診てもらったり、それが口コミで地域に広がって、在宅で診れるんだということを浸透させたいですね。自分の空いた時間で訪問しながら、今できることから少しずつ着手して、在宅医療の普及ができればという気持ちがあります。」

在宅医療への情熱とともに、地域医療の命題のひとつである継続や継承の課題にも取組んでいる。

「若い学生や研修医には、僕が学生や研修医の時に感じた地域医療の面白さを、辛さも大変さも、酸いも甘いも含めて感じてもらえればと思っています。ここに来た人全部が地域医療の道に進まなくてもいいんです。地域で活動している医師と交流があれば、将来、専門医の道に進んだとしても地域の病院とのやりとりがしやすくなります。どちらに進むにしろ、若い人たちに地域医療の現状を知ってもらって、良い医者になって欲しいです。」

美郷町では、毎年「みさと地域医療塾」を開催して、医師の講演だけではなく、住民とのディスカッションや交流会など1泊2日の地域体験を推進している。

「人はたくさんいればいるほど面白いですね。自分だけでは気付かなかった、いろんな考え方を知ることもできて幅が広がります。そういう医者が増えていかなければいけないと思いますし、仲間が増えると仕事もやりやすくなります。」

妻1人子1人の3人で美郷町の医師住宅に住んでいる。

「生活の面で、特別不便だというのは感じないですね。自然が豊かで静かで。食べ物も良いものが安く買えて、生きていくうえでは、すごく健全な場所ですね。」

と快活に笑って、颯爽と仕事に戻っていった。

最後に先生にとっての医療とは?

真摯に向き合う 美郷町国民健康保険西郷病院 副院長 木下裕介氏

宮崎県地域医療支援機構(事務局:宮崎県医療薬務課)
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