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吉持 厳信 氏

プロフィール

平成元年京都大学医学部卒業後、滋賀県公立高島総合病院に外科医として赴任。
1995年から日本同盟基督教団ネパール医療宣教師となり、米国での研修を経て、ネパール王国へ赴任するための準備を始める。1996年からネパール王国極西部ダンデルデュラ病院に外科医、病院長として赴任。

2002年3月帰国。2002年9月から、椎葉村立国民健康保険病院に勤務。2003年6月より同病院院長。
「椎葉村民の皆様にとっての世界一のかかりつけ病院」をモットーに自然体で地域医療に携わっている。大阪府出身。

ネパールでスーパー総合医

吉持医師近影1

小学校6年生の時にアルベルト・シュバイツァーの伝記を読み、医学生時代からすでに発展途上国の医療に携わりたいという意志を持っていた吉持医師。医学部卒業後は外科に入局。途上国での医療は外科的処置や手術が求められるだろうと考えてのキャリア選択をする。

大学病院に1年、市中の総合病院で5年を外科医として働き、1995年からキリスト教系のNGOの一員としてネパールの地で医師として働くことに。アメリカに渡り基本的な研修を受けた後、チベットとインド北部の国境近くのダンデルデュラ病院に派遣される。

対象住民は約30~40万人、年間外来患者数4万3千人、年間分娩数500例、年間手術数200例、病床数は30床で、医師は2名が常勤。そこは首都カトマンズから800㎞、周囲150㎞四方に近代的な病院は一つだけという驚きの環境だった。

賛否両論あるのですが、と前置きの上で、途上国の医療の問題にも触れる。途上国の医療を考える場合、無料での医療行為の提供は、予防の意欲を失わせてしまうことがあるという。安全な水を得ようとすれば薪で水を沸かさなければならず、そこに費用はかかるけれども、病気になった場合の薬代よりは安くつく。それが分かれば水を沸かして飲もうという教育が成り立つ。病気にかからないことが全体の医療コストを押し下げ、住民の健全な生活の実現につながるという考え方だ。

途上国医療とのギャップと日本の地域医療

途上国医療とのギャップと日本の地域医療について語る吉持医師

ネパールで6年半を過ごし日本へ帰国する。初めはあまりのギャップに困惑したという。ネパールでは急性期疾患の対応に追われる毎日だったが、ここでは慢性期疾患の患者がほとんど。患者の満足度の感じ方や、求められる医療の完成度など大きく違っていた。

途上国だとどこに運ぼうにも次の病院は遠く、生命を守るために70%の確率でもトライせざるを得ない状況があり、患者やその家族もゼロよりはましという認識で医療の提供が成立する。日本では100%完治することを成功とし、失敗率も限りなくゼロであることが医療を提供する側へ求められる現実がある。

「日本の病院で求められる医療の完成度は限りなく高いんです。」

また、救急医療は患者を広い面で受け入れ、トリアージしてその場でできる最善の医療を提供する仕事。かたや地域医療は、総合診療としてすべての患者を受け入れる面と、さらにその先もずっとその患者を診ていくという奥の深さがある。

椎葉村での医療の日々

椎葉村での医療の日々1

帰国後は少しのんびりするつもりで、気候の穏やかな土地での赴任先を探していたというが、椎葉村は宮崎県の中山間地域でも最深奥部にあたり、集落が点在する村。3人の医師で、夜間や休日当番にも対応している。若い医師も入ってきて、懸命に働きながらも、月に2回は都市部の病院の研修を受けるなど精力的。地域住民も軽症で病院に来ることはなく、医師に対する感謝と信頼の気持ちを感じるという。

「ほんとうに医師を大切にしてもらっているから居心地がいいし、気が付いたら10年たっていたというのが正直なところです。」

椎葉村での医療の日々2

持病や生活習慣病の所見のついた患者を診ることが多いので、これからの日本の医療に必要な治療や疾患との付き合い方など患者から学ぶことも多い。患者本人や疾患を瞬間瞬間で診るのではなく、時間の経過とともに診ていくことで、患者の容体の的確な把握や、先を予測する能力が身に付いていく。そこに地域医療の真髄がある。

『椎葉村民にとっての世界一のかかりつけ医になる』を病院のモットーに、吉持医師は今日も明るい笑顔で患者と向き合う。

循環診察の日

循環診察の日1

月に1度の巡回診療の日。近隣から住民が集まってくる。18年前に廃校となった小学校の校舎を福祉施設にリニューアル、その一角が臨時の診察室となる。

現在では20世帯30数名の人口となった栂尾地区。かつては林業で賑わったこの地区も時代の趨勢とともに仕事がなくなり、若い働き手世代は外に出ていかざるを得ない。自宅に残った高齢者にとっては、この月に1度の巡回診療が、大切な医療サービスとなっている。

循環診察の日2

定期的に通う受診者が十数人、全員がこの旧栂尾小学校の卒業生。車の運転や歩いて来ることができない高齢者は、福祉保健課の職員が送迎に走り回っている。

一方、待合室となっている日当たりの良い畳部屋では、昔話や家族の話題に花が咲き、ちょっとした同窓会。穏やかでゆったりとした時間が流れる。1カ月ぶりの社会福祉協議会の職員や医療スタッフとの会話に、日常とは違ったにぎやかな雰囲気も漂っている。

循環診察の日3

医師1人と看護師2人で集まった全員を診察。季節がらインフルエンザの予防接種も実施するため、普段の巡回診療よりも人出が多い。看護師が問診票の記入を促し、体重と血圧を測定、立ち居の介助から診察料の会計まで八面六臂の働きぶり。

吉持医師の診察は「体の調子は変わりない?」から始まって「ごはんはおいしく食べれてますか?お通じは?」と普段の生活に異常がないかを確かめ、既往症もほとんど把握している受診者には「右肩の具合はどう?」と、状態を確かめる。

「10年にもなると、毎回同じ顔ぶれですから。でも定期的に診察することが大切で、少しの異常に気が付くことができて病気の早期発見につながるんです。」

循環診察の日4

患者の側も緊張せずに、リラックスして気軽に相談できる雰囲気がある。「焼酎飲んどらんから血圧がちょうどいいが。」と真面目な人が聞いたら怒り出してしまいそうな冗談も飛び交い、2時間半の診療が終わる。

「お薬は35日分出しておきますね!」の言葉で、1カ月に1度しか医師の診察を受けることができないという現実があることにあらためて気が付かされる。村の中心地にある椎葉村国民健康保険病院までは車で山道を40分ほどだが、運転のできない高齢者にとっては容易な移動ではない。

循環診察の日5

「一戸一戸を回るには人手も時間も足りないので、巡回診療という形をとっています。学校という空間も集まりやすくていいですね。看護師は2人ともベテランで経験がありますし、なによりもここは地域ボランティアの黒木節子さんが、住民の健康や食事にも気を配り全面的に動いてくれるので本当にありがたいと思います。」

地域ボランティアの黒木さんは、吉持医師の訪問診療が始まる前には必ず、至るところに花を飾って回る。

「先生はお花が好きなんですよ。」
とニコニコしながら語る黒木さん。医師と住民との強く固い絆がここにはある。

最後に先生にとっての医療とは?

患者から学ぼう 椎葉村国民健康保険病院 院長 吉持 厳信

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