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帖佐 悦男 氏

プロフィール

宮崎大学医学部附属病院 病院長
帖佐 悦男(ちょうさ えつお)

1984年、大分医科大学医学部医学科卒。宮崎医科大学医学部(現・宮崎大学医学部)の整形外科に入局し、2004年に教授に就任。2021年10月より病院長。関節外科からスポーツ障害、骨粗鬆症、骨軟部腫瘍まで幅広い知見と臨床経験を有し、スポーツランド宮崎を医療面から支える枠組み(スポーツメディカルランド宮崎)の立ち上げに携わる。
宮崎県を健康寿命ナンバー1にするべく、ロコモティブシンドローム予防体操(ロコトレ)の普及にも取り組んでいる。

【専門分野】関節外科 / スポーツ整形 / リウマチ / 小児整形
【認定】日本専門医機構整形外科専門医 / 日本整形外科学会認定スポーツ医 / 日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医 / 日本骨粗鬆症学会認定医 / 日本リハビリテーション医学会専門医・指導医 / 日本リハビリテーション医学会認定臨床医 / 日本リウマチ学会専門医・指導医 / 日本リウマチ財団登録医 / 日本人工関節学会認定医 / 日本障がい者スポーツ協会公認障がい者スポーツ医 / 日本スポーツ協会公認スポーツドクター / 日本医師会認定健康スポーツ医

医師としてのルーツ

整形外科医を目指したのは、学生時代にポリクリ(臨床実習)で回った病棟が明るい印象だったからですね。動かなかった部位が動くようになったとか、痛みがなくなって歩けるようになったとか。もちろん骨肉腫などの命に関わる病気もありますが、総じて患者さんも医療スタッフも明るいのが整形外科の魅力かなと思います。

レジデント時代は、今のような2年間の臨床研修制度ではなく、派遣先の病院で麻酔を学んだり、こども療育センターで肢体不自由児の子供たちの診察をしたりという日々でした。多くの先輩医師と知り合えて、医師以外の友人もできました。特に、高千穂町国保病院は思い出がたくさんあって、今でももう一度働きたいぐらいです。「一期一会」って言葉が好きなのですが、やっぱり人との出会いが一番大切です。

1年目からいきなり当直でしたね。一人当直で、何が起きるか分からないし、今みたいにインターネットやスマホもないので、大学で必要そうなテキストをかき集めて持って行く。あとは、話しやすい先輩に電話をかけるぐらいしかやりようがないんです。整形外科医として派遣されていても、小さな病院の当直ではいろいろな患者さんが来ますから、全科診ているようなものです。

当時、一番びっくりしたのは、子宮脱の患者さんですね。骨盤から子宮が飛び出している。学校の授業で見たことも聞いたこともなかった。でも、そんな状況に対応していくことで、今の臨床研修や総合診療のような経験を積んでいったのだと思います。その時期が一番楽しかったですね。


整形外科の視点で見る宮崎の医療

宮崎県は、健康寿命1位(令和元年は女性が全国3位・男性が全国9位)を目指していて、整形外科主催で「みやざきロコモメイト養成講座」という取り組みを行っているのですが、基本的には体を動かすトレーニング指導で、メタボもフレイルもサルコペニアも、予防の基本は全て運動療法です。リハビリテーションが全ての疾患に対して有効です。
私自身も40代のころに肩関節を痛めてしまって、ジャケットも自分で着られないぐらいひどい状態になったことがあります。自分でリハビリを実践していたら、だんだん動くようになり、痛みも消えました。自身の実感を込めて、リハビリが本当に大切だと思います。最近だと、患者さんも大学での手術が終わったら、リハビリをしっかりしてくれる地元の医療機関に転院したいって希望をあげてくれますね。

運動器系は、自分が努力すれば必ず良くなります。大学病院に紹介される患者さんは、手術が必要な方がほとんどですが、術前に6週間ほどリハビリすると痛みが取れてきて「手術しなくていいですか?」って言う患者さんもいるほどです。逆に言えば、筋力がなかったことが痛みの原因だったのです。痛いから使わなくなり、使わないからますます筋力が低下するという悪循環に陥ってしまうわけですね。介護が必要な方の主要な原因の24.8%が運動器疾患です。体を動かせば、実に4分の1が予防できる可能性が出てくるってことです。それに、家の中に閉じこもっていると、気持ちも塞いでしまいますよね。

もう一つの県の取り組みが「スポーツランドみやざき」です。私も小さい頃、野球やサッカーに夢中で、スポーツが好きだったので、スポーツ医学を専門にしたというところもあるのですが、約20年前から「スポーツメディカルランド宮崎」を立ち上げ、スポーツ推進に取り組んでいます。宮崎には、プロスポーツのチームが多数キャンプに訪れますので、彼らのメディカルサポートをはじめ、スポーツイベントへの参加やラグビーのワールドカップの代表チームに帯同させたりもしています。

マラソンランナーのシューズにチップが入っていて、位置情報や状態が分かるというのは今や一般的になりましたが、トライアスロン大会ではチップが使えないので、ドローンを飛ばして参加者の状況を確認するという新たな取り組みを検討しています。

一昨年はコロナの影響でできなかったですが、少年野球をやっている子供たち800人ぐらいを対象に、離断性骨軟骨炎、いわゆる「野球ひじ」の早期発見の検診も実施しています。

小さな子供から高齢者まで、プロからアマまで、宮崎でスポーツをする方々全てが怪我なく長く活躍してほしいです。2019年から、日本ボッチャ協会の医療管理委員会・アンチ・ドーピング委員会の委員長を拝命しているのですが、パラリンピックを観戦して良い刺激を受けたこども療育センターの子供たちが、自分もパラリンピックに出たいって運動を頑張っているのを見るだけでも喜びですよね。

運動療法やスポーツ推進は、夢や希望そのものだと思います。


大学病院の役割と使命

宮崎県唯一の医学部の附属病院ですので、県民の健康を支えて命を守ることが最大の使命です。宮崎大学全体では「世界を視野に地域から始めよう」というスローガンがありますので、診療・教育・研究を通じて、社会に貢献するという役割もあります。
病院としては、5つの基本理念を大切にしています。

(1)「患者さんを医療チームの一員とする良質な医療の実践」、(2)「地域の医療連携強化と最後の砦としての覚悟」、(3)「臨床研究の推進による先端医療の開発と提供」、(4)「人間性豊かな倫理性の高い医療人の育成」、(5)「お互いを尊重し、チームワークのとれた職場環境の整備」

医師だけでできることは少なく、メディカルが一体となったチーム医療が基本です。患者さんにも医療に参加してくださいという気持ちを込めて、「チームの一員」という表現をしています。地域の医療機関も行政もチームの一員ですよね。もちろん大学ですので、新たな医療の開発や研究にも取り組まなければいけませんし、医療人を輩出していくことが、地域への最大の貢献であると考えています。

私が病院長になって一番実現したいことが、5つ目の職場環境の整備です。患者さんに最善の医療を提供するためにも、そこで働く人がやりがいを持って、生き生きしていることが大切だと思っています。副病院長や病院長補佐に職場改善担当を設けて、取り組みを始めました。

大学からは県内全域に医師を派遣していますが、九州唯一の医師少数県であり、大学病院のマンパワーにも限界はありますので、県市町村や医師会との連携が重要です。幸い宮崎の場合は仲が良く、うまく連携出来ているのですが、それは、みんなが地域住民の方を向いて、命と健康を守るという共通認識があるからだと思います。コロナ対応も大変ですが、特に宮崎は南海トラフ地震に備えて、震災被害やその後のパンデミックにまで瞬時に対応できるよう、行政と医師会と大学で県民の命を守る体制を構築しておくことが最重要課題だと思っています。

周産期や救急については、報道でも取り上げていただく機会も多く、県民の認知も向上しているのでありがたいですが、整形や総合診療など、地道に県民の健康増進活動に勤しんでいる診療科にも注目してほしいと思います。

地域医療に関しては、地域医療・総合診療医学講座を中心に人材育成を推進しています。私自身も高千穂で働いていたので、夜間救急や看取りの経験もありますし、地域医療の厳しさも楽しさも知っています。午前中は外来を診て、午後はその患者さんと一緒にお祭りの準備をする、なんて一日もありました(笑)。だからこそ、自治医科大学や宮崎大学地域枠・地域特別枠の卒業生たちが活躍できる場づくりをしたいですね。令和4年度から人数も増えますので、融通の利くシステムにして、働きやすくて、キャリアアップもできる環境を整えていきたいと思います。


若手医師にとっての宮崎の魅力

宮崎大学医学部附属病院の臨床研修の最大の特長でもある、自分で研修先を選べる自由度の高いプログラムは全国の中でもかなり完成度の高いものだと思います。宮崎県内全域の医療機関を活動のフィールドに、能動性・柔軟性・多様性が鍛えられますし、与えられたレールに乗るのではなく、自分で考えて様々な状況に取り組めますので、やる気次第で医師としても人間としても大いに成長できます。

実際にファーストタッチの病院が一番大変です。大学病院にはある程度鑑別の付いた患者さんしか来ないので、病名が決まっていれば治療はできるけれども、初期診断からのプロセスができないという医師が増えている気がします。整形外科でも、股関節が悪いって診断がついているけど、他に疾患を持っていないか、痛い原因は他にあるのではないかなど確認しています。医療安全の観点からも、研修医の先生たちに心がけてほしいのは、「整形外科である前に医師なのだから、どんな疾患も見逃さないようにファーストタッチのつもりで」ってことですね。

学生から研修医時代を通じて、医師の成長を支えてくれているのが、宮崎の県民性と地域住民の優しい人柄です。県や市町村の職員だけでなく、医師会の開業医の先生たちも若い医師の育成に非常に熱心に協力していただいています。患者さんも実習や研修に快く付き合ってくれて、特に臨床研修医にとっては、安心して研修生活を送ることができる環境だと思います。

専門研修については、19領域の全てに対応していますし、2次医療圏の中核病院では、大学から派遣している指導医クラスの先生たちが働いています。お互いに顔の見える間柄だから、患者さんのことも信頼してお願いできるし、いざというときに頼りがいがあります。

もうひとつは、せっかく統合(2003年に宮崎医科大学と宮崎大学が統合)されたので、工学部や農学部と連携した研究・開発を推進したいですね。東九州メディカルバレー構想の中で、地場企業の旭化成と医学部で透析の機器を作った実績もありますし、神経内科と工学部、整形外科と工学部、農学部と健康食品や医薬品の研究だって可能です。大学の研究と、県内企業の技術力をマッチングさせて、どんなものが生まれるか楽しみです。

そこに必要なのが若い力です。今の我々の固い頭ではどれだけ探しても見つからない治療法も、全く違う方向からアプローチしたら見つかるかもしれない。そういうマインドで研究にも取り組んでもらえたらと思います。


チーム医療で県民の健康と生命を守ることが宮崎大学医学部附属病院の最大の使命です。 Chosa Etsuo

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宮崎県地域医療支援機構(事務局:宮崎県医療政策課)
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