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菱川 善隆 氏

プロフィール

宮崎大学医学部長
ひし川 善隆(ひしかわ よしたか)

1989年、島根医科大学医学部卒。第二外科に入局し、主に小児外科・消化器外科医として勤務。1999年からは長崎大学医学部第三解剖学講座に異動、2011年に宮崎大学医学部解剖学講座教授に着任。2021年10月、医学部長に就任。

【専門分野】分子組織細胞生物学
【所属学会】日本解剖学会(理事、九州支部長) / 日本組織細胞化学会(編集担当常任理事) / 日本臨床分子形態学会(理事) / 日本顕微鏡学会 / 分子病理学研究会

2021年10月から宮崎大学医学部長に就任したひし川教授。宮崎県唯一の医師養成機関として、医療の未来を見据えて、どのような医療人を育成していくか、アイデアの源泉と描いているビジョンを語っていただいた。

これまでのあゆみ

私が専門としている分子組織細胞生物学というのは、解剖学のなかでも、いろいろな臓器の組織や細胞を顕微鏡で観察するいわゆる組織学の一分野です。具体的には、正常だけでなくて、病気に関係するたんぱく質やDNA、RNAがどの細胞にあるのかということも調べています。

島根医大大学院では、がんに関係する遺伝子研究をしたくて、ノウハウを学びに長崎大学第三解剖に国内留学しました。島根に戻って自分で研究を始めて以降も、医師として診療にも携わってきましたが、実は、医師になる覚悟を決めたのは、学生時代の肉眼解剖の授業でした。献体されたご遺体に触って解剖するのは、やっぱり特別な体験です。医学部生なら、みんなそこで真面目に勉強しないといけないと自覚する瞬間ではないかと思います。

食道がんの薬剤耐性の研究で学位をとり、縁があって、院生時代の留学先の長崎大学に異動して、基礎医学の道に進むことになりました。それ以来、肝臓の再生や生殖細胞などのステムセル系、細胞がどんな風に死んでいくかというアポトーシスなどをテーマにしています。もともと、ヒトの身体は、一個の受精卵から数十兆個の細胞に増殖して、そして時期が来ると死んでいくわけです。いうなれば「生命とはなにか?」、「どうしてヒトは生きているのか?」という根源的な問題に興味がありました。ちょっと格好良く言い過ぎかな(笑)。

2011年に宮崎に来たのは、当時の菅沼学長に学会でお会いして、解剖学講座の教授を公募しているのをお聞きしたのがきっかけです。学閥みたいなものもなく、教員同士も仲良くて、風通しの良い環境だなと思いました。


宮崎大学医学部の特長と育成方針

医学部だからということでもないでしょうが、他の大学と比べて、横も縦もつながりがあって良いと思いますよ。面倒見の良い先輩と付いていく後輩っていう感じで、部活や大学祭を見ていても、仲が良くて団結力があると思います。ただ、大人しい学生が多い気はしますね。

それが悪い方に作用すると、部活動の人間関係以上に世界が広がらずに、内輪で小さくまとまってしまうというマイナス面もあるかもしれませんが、僕らの時代も同じようなものだったので、ケースバイケースですね。

医学部として地域医療の教育には特に力を入れています。来年度から地域枠の人数もかなり増えます。学生の頃から地域包括ケアの体験実習に数週間をかけるというのは、全国でも稀有なカリキュラムですし、実習内容も宮崎が一番進んでいるのではないでしょうか。自分の住んでいる地域にどのようなニーズがあるか把握してから、医師としてのキャリアを考えてみるのも良いと思います。今まで講義で習ったこととは違う、地域の臨床現場での触れ合いの中で感じることもあるでしょう。まさに、百聞は一見に如かず、ですよね。

組織学の最初の授業の時に必ず言うことがあって、「僕の言ってることは嘘だと思ってね」って。医学はいわばアプリケーションサイエンスなので、どんどん変わっていきます。今は、この病気にはこの薬って決まっているものが、10年後には別の薬が開発されているかもしれません。創傷治療も消毒・乾燥から、浸潤療法へ変わったように、全く逆になることだってありえます。アッペ(急性虫垂炎)だって、昔はすぐに切っていたけど、今は抗生物質で治る。本の情報もあっという間に古くなるので、最新の論文を読んで、時代の進化についていかないといけません。何かおかしいと思ったら、自分で考えて対応できる力とフレキシブルな発想を身につけることが必要になります。そして、それが楽しいっていうメンタリティを持つことが大事ですね。

科学や技術の進歩で、ブレイクスルーが起こる可能性は山ほどあって、今は山中先生の再生医療とかが注目されているけれど、数年も経てば心臓や肝臓の再生だってできるようになっているかもしれない。新型コロナウイルス用のRNAワクチンやがんに対する抗体療法だって、20年前だとまだ夢物語でしたからね。

そんな中で、宮崎大学医学部がめざしていることは、ここで研究している一人ひとりのモチベーションを大切にしながら全員のボトムアップを図ることです。みんな自分の分野が一番楽しいから研究していると思います。学問の内容に優劣はないので、それぞれが目標とする道を究められるような医学部でありたいですね。


医学生へのメッセージ

医学生へのメッセージ

医学部入試までは、子供の頃から素直に言われたことを実践してきたという人が多いかもしれないですが、卒業してからが本当の勝負です。できれば、学生の間に自分でものを考える志向に変わっていってほしいと思います。

医師という仕事は、患者さんを診断し、検査データを見て、治療方針を決めます。自分がどう判断するかによって、患者さんの運命が変わり、判断を間違えれば、お亡くなりになる場合だってあります。

臨床の現場は常に本番ですので、自分で判断して、次はどうするかというトレーニングに最適なのが研究です。自分でテーマを見つけ、実験してデータを集めて発表する、全て自分の責任です。今の立場とは違う視点から自分自身を見つめることにもなりますので、臨床と研究の両立は面白いと思いますよ。

そのためにも、母校という存在を最大限活用してほしいですね。教えてもらった先生も、頼りになる先輩もいるし、特に、宮崎県では、大学病院と県医師会と行政と医療機関が良好な関係を作っていて、有機的にまとまっています。なので、何かトラブルが起きても多方面から手を差し伸べてくれる。臨床医になるにも、研究を始めるにも、相談できる相手がいるというのは、それだけでアドバンテージです。

地域完結型の医療を提供するには、専門医や先進医療も必要です。医学部を卒業しても、医療人育成推進センターが臨床研修から専門研修までフォローしますので、自分で思い描いたキャリアデザインを突き進んでください。大学も、同じ道の卒業生や研究者への紹介や推薦はできますので、大いに頼っていただければと思います。

もちろん、地域枠のキャリア形成プログラムの中でも、大学で専門医を取得したり、研究で医学博士をとったりすることは十分可能です。臨床しながら、研究をすることで幅が広がりますのでぜひチャレンジしてほしいです。あと、短くても海外留学は経験した方が良いですね。日本を離れるという体験が大事ですので、宮崎の地域医療から始めて、世界中をぐるっと回って帰ってくるというキャリアもありだと思います。そのあたりも、大学としてしっかりサポートしていきたいですね。

宮崎でスタートするにしても、少なくとも一回は外の世界を見るべきだと思います。宮崎だけに留まらないで、自分の全然知らないところに武者修行に出かけるのも大事なことです。知識も必要ですが、いろいろなことに興味を抱いて、経験して、引き出しをたくさん作ることで、人間としての幅を広げていってください。


卒業後も、医療人育成推進センターが臨床研修から専門研修までフォローします。 Hishikawa Yoshitaka

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宮崎県地域医療支援機構(事務局:宮崎県医療政策課)
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