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川名 隆司 氏

2020年夏、医療と防災の新しい拠点としてリニューアルした宮崎市郡医師会病院。
宮崎東諸県医療圏42万人超の人口をカバーする救急医療、心臓病センターにおけるハイレベルな医療提供、そして新たに、災害医療の中核になるという3つの使命を掲げて生まれ変わった。
病院新設のプロジェクトを指揮してきた川名隆司病院長に、新病院のコンセプトと地域医療のグランドデザインを語っていただいた。

新病院のコンセプト

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地域医療構想の下で、私たちが担うべき役割は、急性期医療と地域包括ケアの両輪です。

急性期医療においては、会員医療機関からの緊急入院の受け入れはもちろん、心疾患に関しては、2次医療圏の枠を超え、県内全域から救急患者を受け入れることが求められています。

移転前から、当院の心臓病センターでは、高度で先進的な治療体制の構築とMobileCCU(心臓病専用救急車)など設備・医療機器等の整備を進めてきました。

今後もさらに多くの県内医療機関と機能分担しながら、医療資源が不足している他医療圏からの重症患者も広く受け入れ、県内全域の救急・急性期医療の底上げに貢献したいと思っています。

高速道路の宮崎西インターチェンジから近いこの地に移転したことにより、西都児湯や都城など隣接する2次医療圏からのアクセスが格段に良くなりました。

その一方で、市内中心部から少し離れたこともあり、会員医療機関の利便性を向上する目的で、患者の送迎を始めました。地域ニーズを的確に捉え、現場の意向を大切にして、スピーディーに意思決定するというのが当院のマネジメント方針です。会員、患者、職員全ての満足度がトップとなる日本一の医師会病院を目指しています。

3つの施策

川名隆司氏02

コンセプトに沿って、具体的に進めてきた計画が3つあります。

一つ目が、診療科の再開です。会員の医療機関へのアンケート調査で、最もニーズが高かったのが内科の拡充で、医師招へいに力を注ぎ、1名体制だった内科を4名まで増員して、総合・消化器・呼吸器領域として再開・強化することができました。

二つ目が、病床数の規模拡大です。健診センターの19床を併合して、267床となりました。

そして三つ目が、救急医療体制の強化です。宮崎市の医療構想の中では、西部地域の中核病院としてER型救急が望まれており、夜間救急医療センターとしての永続的な役割も求められています。

もともと、医師会病院の原点は「会員のための病院」です。「常時、患者さんを収容、治療できる体制をとり、転送患者をすべて受け入れる。」というのが開設以来のミッションです。

また、近年の医療ニーズの変化に応じて、緩和ケアや在宅医療に取り組む会員も増えていますので、患者さんの急変時にいつでも受け入れられる後方病院としての役割をしっかりと果たしていきます。

そこで、ERの経験豊富な廣兼民徳医師を部長に迎え、宮崎大学医学部附属病院救命救急センターからは、救急科医師を4名派遣していただき、多大なる協力の下で、この体制が実現できています。

それぞれの診療科の特長

心臓病センターは、宮崎県全域において、三次医療の中核を担っています。生死に直結する急性心筋梗塞の急性期医療だけでなく、先進的な高度医療への挑戦も続けています。

柴田剛徳副院長(センター長)を筆頭に、循環器内科19名、心臓血管外科4名体制の循環器領域は全国有数の治療実績を誇り、県内初のTAVI(経カテーテル大動脈弁植え込み術)、Mitra Clip(経皮的僧帽弁形成術)、WATCHMAN(左心耳閉鎖治療)等、先進医療に取り組み、宮崎県全体の循環器医療のレベルアップに努めています。

また、2019年には、心不全患者さんに対する地域連携を推進するために、「心不全地域連携パス」と「心不全手帳」を連携病院と共同で作成しました。患者さんに手帳を常備していただくことで、会員医療機関も含め、地域ぐるみで心不全患者さんをサポートすることを目的としています。

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地域周産期母子医療センターは、産婦人科病棟とNICU(新生児集中治療室)、GCU(新生児回復室)とが一体の施設構造になっており、出産前の母児モニタリングから分娩・産後の治療や緊急手術まで完結できる機能と体制を整えています。

会員のかかりつけ医と当院の勤務医とが共同で診療にあたるオープンシステムの活用を推進しつつ、宮崎大学医学部附属病院の総合周産期母子医療センターとのきめ細かな連携で、ハイリスク分娩等に対する緊急対応体制も万全です。

近年、会員の高齢化・事業継承問題で、閉院や分娩を行わない施設が増える傾向もあり、医師会病院が、会員と連携して周産期センターとしての役割を果たすことで、地域の妊婦さんが安心してお産ができるように貢献できればと考えています。

整形外科は、高齢者の大腿骨骨折や小児の骨折等の外傷を中心に診療しています。

中でも大腿骨頚部骨折の手術症例数は、全国有数の症例数を誇っています。高齢者の手術が多数を占めているため、合併症への対応も必要となり、循環器内科や麻酔科のバックアップ体制により、循環器系疾患やハイリスク麻酔にも対応しています。また、手根管症候群や肘部管症候群等の末梢神経障害、人工関節(股・膝)の手術も得意分野としています。

外科は、消化器外科領域がメインで、胆石症や閉塞性黄疸等の肝胆膵疾患、食道、胃、大腸等の消化管のがん診療、その他ヘルニアなどの一般外科領域にも対応しています。また、外科手術症例の約4割を虫垂炎、イレウス、消化管穿孔等の腹部救急疾患が占めているので、夜間や休日も24時間365日オンコール体制で、可能な限り救急患者を受け入れています。

新病院では、これまでの消化器外科領域にくわえて、肝胆膵の領域の患者さんも積極的に受け入れていきます。

内科は、急性期の一般領域に総合的に対応できるようになりました。

消化器、呼吸器、感染症、腎疾患など、対応領域の広さが強みです。救急科と連携しながら、内科系疾患の対応を拡充しており、ER型救急として、より充実するためにさらなる体制強化を目指しています。

それ以外にも、スポーツドクター資格を持つ女性医師が在籍しており、女性アスリートのためのスポーツ外来も開設するなど、特色のある病院を目指しています。

医療防災拠点としての役割

防災拠点

1997年3月より宮崎県から地域災害拠点病院に指定されていますが、旧病院は海岸に近いため、南海トラフ巨大地震による津波浸水想定では、浸水によりその機能を果たせなくなる心配がありました。

新病院は「生目の杜医療防災拠点」として、宮崎市郡歯科医師会が開設する「宮崎歯科福祉センター」と宮崎市郡薬剤師会が開設する「いきめの杜会営薬局」とともに高台に移転し、広大な敷地内には自衛隊等による救援の受け入れ先となる防災緑地も整備されています。

災害時に医療機能が停止することのないよう、病院棟は免震構造になっていて、屋上ヘリポート、トリアージスペースの確保等、災害に強い病院として設計されています。

電力は、異なる2箇所の変電所から別々のルートで引き込んで冗長化していますし、非常用発電機だけでも平常時の約8割はカバーできます。

ガスコージェネレーションも導入しており、都市ガスが途絶しなければ平常時と同程度の電力が確保できるようにもしています。上水道は4日分、雑用水は12日分の備蓄、災害時に公共下水道が使用できないことを想定し、約7日間分の汚水が貯留できる汚水貯留槽を設置しています。

宮崎東諸県医療圏における課題

防災拠点

全国どこでも同じかもしれませんが、地域医療構想の実現と地域包括ケアシステムの確立が喫緊の課題です。特に在宅医療の需要増加は大きなテーマで、必要量が推計され、これから具体的に行政単位、地域包括ケア地域単位で検討するフェーズに入っています。

宮崎市郡医師会では、2018年に在宅医会(宮崎在宅ドクターネット)を立ち上げ、これまで行っていた在宅スキルアップ研修会の充実や在宅医療介護の連携を行うICTの普及促進に努めています。

例えば、在宅医療や介護の現場では情報連携が欠かせないのですが、電話やFAXによるアナログな連携事務の業務負荷が問題となっていました。事務作業で現場に割く時間が削られるのは本末転倒だと、宮崎市郡医師会が中心となって、情報連携ネットワークを構築し、現在では200人以上の利用登録があります。短期間でここまで広がったのは、在宅医会の理事の先生方が自ら働きかけ、多数の研修会を行ってきた賜物です。

また、地域医療介護総合確保基金等により宮崎県、宮崎市にも多大なるご支援をいただき、この場をお借りして御礼を申し上げます。

医師会病院の医療機能をもっと会員医療機関にお伝えし、ゲートキーパーである会員医療施設が患者さんのリスクを発見し、当院にスムーズにご紹介していただける流れを、これまで以上に円滑にしていく必要がありますので、渉外・広報課を新設し、地域医療連携室には紹介外来・入院予約担当者を専任で配置しています。

医療人育成について

医療スタッフ

診療が第一ですが、同じぐらい研修・教育にも力を入れており、特に循環器内科には、全国から学びに来ている医師が多数いますので、一定の教育水準を保つ必要があります。カテーテル治療のワークショップ(病院見学・手術見学・症例検討会)には、カテーテルの専門医を目指す医師たちが国内外から集まってきます。
研究にも力を入れており、年間150題ほどの学会発表の実績があります。

診療・教育・研究すべてを並行して行うことで、高いレベルの医療を展開し、宮崎から世界に向けて成果を発信することで、高いモチベーションを維持し、これらを好循環させることが、医療人育成にとって最も重要なことだと考え、全国だけでなく、全世界から勉強に来たいと思われるような施設となることを目指しています。

また、地域貢献への取り組みとして、地元の高校生を対象にした「ブラック・ジャックセミナー」を年に1回開催しています。

心臓カテーテルや縫合手術、エコー検査、リハビリテーションを体験して、医師の仕事に興味を持ってもらうのが目的です。
願わくは、この経験を通して、医師を目指してもらい、将来は宮崎の医療に携わっていただきたいという思いで、病院スタッフ総出で開催しています。

地方の医療の問題の一つに、せっかく優秀な医師を輩出しても、活躍の場を求めて流出してしまう、また、戻りたくても身に付けた専門性を活かして働ける環境がないから戻れないという現実があります。

その一つの解決策として、特定分野に特化することで、専門医が活躍できる場所を確保し、地域完結型の医療を住民に提供できると同時に、後進の医師たちの教育の場としても最高の環境が作れると考えています。

宮崎市郡医師会病院では、基幹型臨床研修病院として初期研修医の受け入れを計画中です。

さらに、専門医の認定教育施設となり、新専門医制度の循環器専門医プログラムを策定して、宮崎県内で専門医が取得できるような環境を整え、一人でも多くの医師がこの宮崎に残り、研鑽できる環境創出の一翼を担い、
宮崎県の医療の成長に貢献したいという熱い思いが本院にはみなぎっています。

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宮崎県地域医療支援機構(事務局:宮崎県医療政策課)
〒880-8501 宮崎県宮崎市橘通東二丁目10番1号 TEL 0985-26-7451
ishishohei@pref.miyazaki.lg.jp