PROFILE
宮崎大学医学部 内科学講座 呼吸器・膠原病・感染症・脳神経内科学分野 教授
宮崎大学医学部附属病院 呼吸器内科 診療科長
宮崎 泰可(みやざき たいが)
1998年、長崎大学医学部卒業後、長崎大学病院第二内科に入局。国立嬉野病院、日本赤十字社長崎原爆病院での臨床研修後、長崎大学大学院にて感染症の研究に従事。2003年よりアメリカ国立アレルギー感染症研究所/国立衛生研究所に留学。2006年に長崎県に戻り、諫早総合病院、佐世保市立総合病院で呼吸器内科の臨床医経験を経て、2014年より、臨床感染症学の教育に携わる。2021年より現職。
【専門分野】日本内科学会認定内科医、日本内科学会総合内科専門医、日本内科学会内科指導医、日本呼吸器学会専門医・指導医、日本感染症学会専門医・指導医、日本医真菌学会専門医、日本結核病学会結核・抗酸菌症認定医、日本化学療法学会抗菌薬臨床試験認定医、日本化学療法学会抗菌化学療法指導医、ICD制度協議会認定インフェクションコントロールドクター
生まれも育ちも長崎県で、長崎県の町医者を目指していた普通の高校生が、専門性の高い研究者の道を選択した。医師になって3年目の大学院進学がターニングポイントとなった。
「初期研修時代は、目の前の仕事をこなすのが精一杯で、将来について考える暇もありませんでした。一番初めに研修を受けたのがたまたま呼吸器内科で、指導医の先生が感染症の専門医でしたので、医局の所属のまま大学院に進み、臨床と研究を並行して続けていました。そのうち教育にも携わるようになったものの、こんなに長く大学にいるとは思ってもみなかったです。」
呼吸器感染症は、原因によって全く治療法が異なり、適切な治療をすれば治る可能性が高まるが、間違えば命取りになりかねない領域でもある。
「肺炎は、内科的な処方によって治る可能性があります。肺炎を引き起こす原因によっては抗菌薬が全く違うので、そこに内科医としての可能性と魅力を感じました。20年ほど前の肺癌はきつい抗癌剤治療を行っても完治しない病気でしたので、研修医としてはつらい仕事でしたね。最期までタバコを吸わせてくれと懇願する患者さんもいらっしゃって、余命数ヶ月だからこっそり吸わせてあげたいと葛藤した記憶もあります。」
その後、大学院に進み、アメリカの国立アレルギー感染症研究所にて学ぶことになる。
「医師一人で診られる患者さんの数に限界を感じていて、特効薬が作れれば一人の臨床医とは比べ物にならないぐらいたくさんの命を救えると考えました。感染症の原因には細菌やウイルスなどがありますが、特にカビの感染症の治療薬は少なく、薬の効かない菌もいて、研究を進めれば、何か良い薬が見つかるのではないかと期待されている分野でもありました。」
臨床と研究の選択に、迷いはなかったのだろうか?
「臨床が好きだったので、臨床医として生きていくことも考えました。しかし、一般病院に行くと臨床だけになってしまいますし、研究に面白さを感じてきていたので、大学にいながら臨床もできる道はないか模索しました。結果的に、大学では研究をしながら難病の患者さんを診療し、佐世保市や諫早市(いずれも長崎県)の病院で、定期的に呼吸器内科医として肺炎や喘息、肺癌といった一般的な疾患を診るというローテーションに落ち着きました。」
歴史的な経緯もあり、長崎県は感染症専門医の数が日本一多い、感染症研究のメッカである。呼吸器内科も人口当たりの医師数が九州圏内ではトップで、研究設備や教育制度も整っていた。感染症専門医が少ない宮崎県に来て、かなりのギャップを感じたという。
「宮崎県の現状を知り、大いに伸びしろがあると感じました。他の地域に出て活躍されている医局の先輩方の姿をたくさん見ていましたので、専門家が少ない地域に行って仕事をすることは自然な流れというか、自分がお役に立てることがあるなら何でもやっていこうという気持ちになりました。」
ボトルネックになるのは、やはり医師の少なさだという。
「みんな頑張っているのですが、それぞれが臨床と教育を担当しているので手一杯になってしまい、研究の方は後回しになりがちですね。長崎県のように人手があれば、臨床をしたい人は一般病院で診療だけを行い、教育をしたい人は大学で先生をして、学問に没頭したい人は自分の研究に専念することができるのですが…。医師不足を補うためには、分担と集中ができる環境が必要だと考えています。それぞれの得意分野を伸ばせるような体制にして、臨床・教育・研究においても各自で成果を出し、総合的に一つの教室としてアウトプットできれば良いのかなと考えるようになりました。」
内科学講座全体で、一般的な症例を診ることができる内科専門医の育成を最優先事項とし、次の段階として、専門性の高い医療や臓器別専門医、研究の道に進むという育成方針を推進している。
「医師不足と医師偏在が当面の課題で、地域のために良い臨床医を育てることが講座の使命です。県内のどこででも活躍できる臨床医を育てることが、地域貢献や研究の発展に繋がり、さらに医療の発展にも繋がると考えています。」
呼吸器・膠原病・感染症・脳神経内科学分野の中には4つの診療科があり、連携して臨床や研究を行っている。
「呼吸器内科に入局したら呼吸器内科の勉強しかできないということではなく、隣に脳神経内科の先生も膠原病の専門医もいますし、感染症内科のカンファレンスには全員が出ています。感染症はどの科でも起きる可能性があり、例えば神経内科であれば、脳炎や髄膜炎、膠原病であれば、薬の副作用で免疫が落ちるため感染症を起こしやすくなるといったことが挙げられます。呼吸器だけでなく、全ての診療科で垣根なく感染症を勉強することで、この講座の出身であれば、どこに行っても感染症には自信を持って対応できるというぐらいの医師を育てたいですね。」
医療資源が少ない宮崎県ならではのメリットもある。
「呼吸器内科の場合は、重症や難病の患者さんのほとんどが大学に集約されますので、症例が豊富です。一方で、地域の協力型研修病院に出れば、一般的な臨床の経験も積めるので、どちらの能力も伸ばすことができます。地域で患者さんが少ないわけではないですし、各医療機関の指導医の先生方も教育熱心なので、手厚い指導が受けられます。地域枠の定員も増えましたので、地域で働く若い先生たちが大学病院以外でも最新の教育が受けられるように、医局にリソースを集約し、拠点病院に派遣する指導医を増やしていければと考えています。」
医師としての仕事も私生活も楽しんでほしいですね。苦しい時もあるでしょうが、それを乗り切れるのは、楽しい時間があってこそです。
自分の領域を狭めずに、興味を持ったらまず挑戦してみる。自分に合うものを探して、その道を伸ばしていけば良いと思います。
何かをしたいという想いを持つ人たちが集まれるように、環境を整えたり背中を押したりするのが私たちの役割です。新しい何かを見つけに、ぜひ当講座へおいでください。