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嶋本 富博 氏

プロフィール

宮崎県立宮崎病院 院長
嶋本 富博(しまもと とみひろ)

長崎市生まれ。幼少期に天草で開業医をしていた叔父の姿に憧れを抱き医師を志す。1984年、九州大学医学部を卒業。出生届を出せるのは産婦人科医だけという先輩医師のアドバイスで産婦人科医の道を選ぶ。九州がんセンター、九州大学医学部附属病院での勤務、1992年、宮崎県立宮崎病院にて産婦人科部長、2021年4月、病院長に就任。

専門:婦人科腫瘍専門医、婦人科細胞診

1921(大正10)年10月に宮崎県が開設した公的医療機関として、急性期医療から慢性期医療まで地域医療全般を担ってきた県立宮崎病院。小児科、新生児未熟児センター、救命救急センター、癌治療センターとその役割を拡大し、腎移植、骨髄移植等の最先端医療にも取り組む。2014年にはドクターカーを導入し、宮崎大学医学部附属病院との連携で救命救急センターを強化。さらに総合診療科、新生児科を増設して、県民のニーズに応じた医療活動を展開している。2022年1月にリニューアルオープンした新病院では、救急医療、災害医療、がん治療、感染症など全県レベルの高度急性期医療を担う中核病院として、よりいっそうの施設・設備を充実させた。2021年より病院長に就任した嶋本院長に、新病院のコンセプトと地域医療への思いを聞いた。


これまでのあゆみ

私が初めに県立宮崎病院に来たのが医師3年目の1986年です。病院の改築工事が終わった直後で、とてもきれいで、活気に満ちあふれていました。それから30年以上を経てのリニューアルで、今がまさに同じ状況ですが、みんな新たな歴史を作ることに気分が盛り上がっています。

患者さんも多かったですし、スタッフも喜んで働いている中で、色んな経験をさせてもらって、病院や宮崎にとても愛着を持ちました。分娩は年間900件以上、最も多い時期で、土日に20人以上の分娩に立ち会いました。休む暇もなく多忙な毎日でしたが、結局、その頃の経験が財産になっていますね。

九州大学に帰ってからも、また宮崎で働きたいなと思っていました。定期異動に際し、教授面接で、「もう一度宮崎に行きたいです」と言っていたら、偶然ポストが空いて、1992年に県立宮崎病院に戻ってくることができました。

宮崎は医師が少ない県と言われていますが、運用面は進んでいると思います。例えば、産婦人科では、私が来た頃、周産期医療センターは県立宮崎病院と宮崎大学医学部附属病院だけでしたが、いまや全ての医療圏にあり、開業医との連携で、周産期死亡率の低さは全国トップレベルになりました。少しずつでも医師を養成して、こつこつと制度を改善していけば、努力が確実に反映されることもこの30余年で実感しています。医師が少ないだけに、お互いの顔が見られるちょうど良い規模で、団結力は強いと思いますよ。

ただ今後の心配は、県南や県北西部の過疎化が進むにつれ、地域完結型の高度な医療体制が維持できるのかということです。医師の数という問題もありますが、医療圏ごとに中核病院で2次3次医療を機能分化することができれば理想的ですね。


新病院のコンセプト

県立病院としての理念は、これまでと変わらず、「地域とともに歩み良質で高度な医療を提供する患者さま中心の病院を目指す」です。

ただ、これが指すものが時代とともに変わっています。昔は医師が頑張ればどうにかできたものが、今は医師もチーム医療の中の一員です。地域包括ケアシステムの実現には、複数の医師、複数の診療科、そして複数の職種が協働で治療することが必要です。薬剤師や看護師、技師、栄養士などそれぞれがプロフェッショナリズムを十分に発揮し、お互いが協力し合える病院にするというのが、これからのコンセプトとなります。

もう一つ、地域に求められているのが救命救急です。新病院では、救急・総合診療センター外来と病棟を同じフロア(1階)に配置し、病床数を増床しています。屋上ヘリポートから救急・総合診療センター、手術室(3階)、周産期センター(5階)まで直通エレベーターを設置し、効率的な動線設計にしました。手術室の数も拡充しています。

県立病院の使命のひとつとして、救命患者を受け入れ、多科多職種で協力し合って急性期を乗り越えるためのお手伝いをさせていただく。今後は、医療圏の患者さんだけではなく、要請があればどこからでもヘリで搬送して受け入れられるぐらいの規模に医師やスタッフを拡充していくことで、「断らない救急」を目指していきたいです。

とはいえ、医療資源には限りがありますので、2次3次救急医療の病床を確保するためには、地域の診療所・病院からの紹介患者を適切に診療してお返しすることも必要です。かかりつけ医と高次病院を繋ぐ、急性期から亜急性期に繋ぐ病診連携の体制を構築することも、大事な目標です。

また、もともと感染症指定病院ですので、感染症患者を受け入れるための専用エレベーターや二重扉などは完備していましたが、新型コロナのような大規模な新興感染症を想定した設計変更も間に合いましたので、円滑な受け入れを可能としています。

その他、入院前から退院後まで継ぎ目なく支援するための患者支援センターの充実、手術室の増床、ロボットの導入などのハード面だけでなく、人材面でも170名以上(研修医約30名、専攻医約30名を含む)の医師を擁し、医療のプロフェッショナルの力を集結して治療にあたります。指導医のもと、しっかりと技術を磨き、医療者としての人間性を含めた育成を心がけています。

そのために実践することは、とにかく「会話」です。新病院では、医局がワンフロアになり、診療科同士の垣根はますます低くなりました。自分以外のすべての人が先生であり、友人です。挨拶運動も含めて、お互いにコミュニケーションを取りやすい、親しみやすい職場を目指していきたいと思います。


研修医の育成方針

臨床研修では、医師として最も根幹となる、人を救う技術を習得するためにも、多くの急性期救急疾患を経験してもらいたいですし、専門研修では専門医取得に必要な経験素養を積むために、可能な限りの実地修練を優先しています。

研修希望者の面接でも、志望理由の一つとして救急のファーストタッチができることを挙げる医学生や研修医が多いので、ニーズにもマッチしていると思います。

宮崎大学だけでなく、九州大学や熊本大学出身の研修医や先輩もいて、それぞれの病院ならではの文化も味わえますし、逆に宮崎を交流の場として、他の都道府県から来ていただけるのも大歓迎です。

また、難病・がん治療の高度医療を提供する病院でもありますので、大学医学部との協力で、県全体の医療レベル向上の中心であり続けるよう今後もスタッフの養成に努めます。

現在も地域医療科の医師が中心となって地域の病院への応援を行っています。将来は地域に必要な人材をさらに育成し、必要に応じて適宜派遣していくことができればと思っています。当院には優秀なベテラン医師が多数います。研修医にはその医師の姿をロールモデルに、将来への展望の一助にしてほしいですし、またベテラン医師にも、常に後継者の育成、自己研鑽に努めてもらいたいです。そのための支援は惜しまない方針です。最終的には県民に資する先行投資と考えているからです。

そして、全ての患者さんは先生であると私は思っています。患者さんを尊敬しなさいというメッセージでもありますし、自分を高めてくれる教科書以上の存在でもあります。患者さんとの交流の中でスキルアップした若い医師たちが宮崎県全体に散らばって活躍するきっかけの場となれればと考えています。
今、県立宮崎病院にいる医師も、これから研修に来る医師にも、自分の基礎はこの病院で培われたと、また自分が医師人生を振り返ったときに、ここで学んでよかったと思えるような経験ができる病院にしていきたいですね。


地域医療への貢献

2021年4月から、救急・総合診療センター総合診療科の体制を強化しました。主病を治療しても社会復帰と機能回復までには、その他の疾病の治療を引き続き行うことが必要な高齢の患者さんが増加しています。全人的に診る総合診療医の必要性が増していて、宮崎大学医学部地域医療・総合診療医学講座の協力を得て総合診療科の体制強化ができました。

救命救急も全身を診るジェネラリストになりつつありますが、ER的な救命センターとなると、やはり20名以上必要で、規模が大きくないと難しいですね。当院はまだ限られた医療資源の中で、各診療科の相乗り型のシステムですが、それでも、救命救急科は救命に専念できるようになりつつありますし、総合診療科のおかげで、病状のコントロールと、患者さんが安定した時点でのICUから専門科に転科する橋渡しがスムーズになりました。地域の病院で、社会復帰・機能復帰が円滑にいくよう調整する病診連携も総合診療科の役割で、ここが「断らない救急」の要となっています。

スタッフも志が高くて、情熱を持って働いています。多死・多病社会において、彼らの存在というのは、今後重要になっていきます。今までも、僻地の診療所の一人医師が、総合医と救急医の要素を持つ必要性はあったのですが、内科の専門でさえ細分化されている現代医療においては、病院内総合診療医の価値もどんどん高まっていくと考えています。


研修医へのメッセージ

研修医へのメッセージ

忙しい中でも、お互いの顔が見え、気遣いを忘れない職場環境です。病院全体で、若い医師を育てる意欲が高いスタッフがそろっています。どの診療科も垣根なく、分け隔てなく接する気風で、先輩医師のキャラクターも幅広く、医局を中心に研鑽を積んだ医師、地域医療を学びながら同時に専門性を取得してきた医師など、経験豊富な人材が活躍しています。医師に限らず、看護師や技師、職員にもプロフェッショナリズムを持った尊敬すべき人物がいますので、これからの生き方の参考になるのではないでしょうか。

ぜひ1年でも2年でも一緒に勉強して、自身の医療レベルの向上に当院を使っていただきたいし、その思いを胸に宮崎県民の命と健康を守る使命を持っていただければ幸いです。お待ちしています。


宮崎県民の命と健康を守る使命を持っていただければ幸いです。 Shimamoto Tomihiro

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宮崎県地域医療支援機構(事務局:宮崎県医療政策課)
〒880-8501 宮崎県宮崎市橘通東二丁目10番1号 TEL 0985-26-7451
ishishohei@pref.miyazaki.lg.jp