今の地方の地域医療を支えている人材として、自治医科大学出身の医師の存在はとてつもなく大きい。
毎年、各都道府県から2~3名が選抜され、卒業するまでの6年間の経済的支援が受けられ、卒業後は、出身地に戻って、へき地の医療に一定期間従事することで、貸与資金の返還が免除される。
地域医療に携わりたいという心構えの医学部志望者にとっても、へき地での医療サービスを維持したい自治体にとっても、双方に有益な制度となっている。
今回は、若手の医師夫妻が地域医療の現場で感じた「リアル」を語っていただいた。
いぐち まさき/新富町出身
2014年、自治医科大学卒業。県立日南病院での初期研修、県立延岡病院での後期研修(整形外科専攻)を経て、2017年に美郷町国民健康保険西郷病院に医長として赴任。
所属学会:日本整形外科学会、骨折治療学会
いぐち まゆみ/日向市出身
2013年、宮崎大学医学部卒業。県立日南病院での初期研修を経て、宮崎大学医学部の外科学講座に入局し、家族と暮らすため、北郷診療所への派遣を希望。2018年に美郷町国民健康保険北郷診療所所長に就任。
所属学会:日本外科学会、日本内科学会
公貴
医学部進学を考えた頃から、漠然とですが、地域医療に興味がありましたし、医師として宮崎で働きたいと思っていました。整形外科は医学部時代や研修で学んでいるうちに、地域での需要もありそうだなと思って専攻しました。
真由美
お医者さんって定年もなく、どこでも働けるのが良いなあと思っていました。今は結婚して、ここで一緒に暮らしているので、しばらくはへき地の地域医療に携わっていきたいですね。
公貴
初期研修は県立日南病院でした。研修医が少なかったこともあって、重症患者さんのケアも含めていろんな症例を経験させてもらえる場でした。その後、後期研修は県立延岡病院で1年間整形外科を専攻し、当院に赴任して2年目となりました。へき地医療では病院間の連携が重要で、へき地で勤務する前に後方病院である県立病院で研修でき、「顔の見える関係」になれていて良かったと思います。
真由美
私も初期研修は県立日南病院でした。主人の1年先輩になります。産休を挟んで、主人と同じ美郷町での勤務を希望したところ、北郷診療所を紹介されました。産休明けで、週3回の勤務から始めて、徐々に慣れてからではありましたが、自分に前任のベテラン所長の代わりが務まるのか、隣に指導医の先生は一人もいないしで、始めは不安しかなかったです。
公貴
延岡や日向が近いので、ここで完結するというよりは、トリアージが前提となります。その一方で、美郷町は宮崎県内における高齢化率ナンバーワンの町ですので、ここで診てほしいというニーズもあります。外傷の手術だけでなく、変形性関節症とか、腰椎症とか慢性疾患を抱えている高齢の患者さんにとっても、へき地での整形外科医の需要はあると感じました。
真由美
北郷診療所では、生活習慣病で定期的に通っていらっしゃる方がほとんどですので、慢性疾患はしっかり診ていきたいと思っています。足が痛い、腰が痛いというような整形外科の分野もそうですね。細かいところでいえば、巻き爪とか魚の目とか、命に別状はないけれど、痛くて困っている人がいらっしゃれば、何とかしてあげたいなと、調べて治療することも増えてきました。心臓弁膜症や肺炎など診療所で対応できない入院が必要な患者さんは、すぐに西郷病院に連絡して受け入れてもらっています。
公貴
医師はお互いに顔見知りですし、診療所や病院同士の風通しも良いので、電話一本で患者さんを受け入れたり、逆に受け入れてもらったりと、スムーズに連携できています。また、町の取組として、日本初となった救急業務の民間委託の存在も大きいです。以前は役場の職員が救急車を運転していたので、酸素投与しかできずに、事前情報もなく、搬送されてくるような場合もありました。今は救急隊が乗っているので、プレホスピタルの情報があることから、受け手側としての準備も違いますし、患者さんも、私たち病院も、かなり助かっています。
真由美
美郷町は西郷病院を中心に、北郷と南郷の2つの診療所があります。北郷診療所は、医師1人、看護師さん2人、事務の方が2人という5人体制です。
公貴
居住地に近いところに診療所が欲しい、という地域のニーズもあると思うのですが、個人的には集約化を図っていかないと、マンパワーの不足は埋められないかなと思っています。直面している問題としては、夜間のナースが2名体制で、救急と急変が重なった時に対応できない可能性があります。少ないスタッフでどう対応するかが課題です。
公貴
義務年限の期間の残り5年は、夫婦2人で地域医療に従事していけると良いなと思っています。その後は、専門医習得を目指して修練を積んでいく予定ですが、いずれにしても宮崎県内での勤務を続けていきたいですね。私自身のキャリア形成と妻のキャリア形成の両立は、今の状況では難しい部分もありますが、どうすれば出来るかを考えていきたいです。
真由美
私も、5年間はへき地での勤務か、通える距離のところで、一緒に頑張っていきたいと思っています。子どもが小さいので、預かってくれるところがあって、お迎えの時間に間に合って、当直のない昼間の勤務という条件で探していただいて、北郷診療所を紹介していただきました。今後挑戦したいことは色々ありますが、子どもの教育のことも、自分のキャリアのことも、これから考えつつ、というところです。
公貴
地域では、自分の希望の診療科のキャリア形成に加えて、総合診療医としてのスキルも身につける必要があります。へき地で勤務する前に、そういったスキルを磨く場所や研修プログラムがあれば助かるなと思います。自治医科大学独自のバックアップ体制として、卒業生は、インターネットで最新の医療論文や電子ジャーナルなどにアクセスすることができ、実際に診療する上でとても助かっています。ほかにも、後期研修や短期研修も充実していますし、変わったところでは、研究や論文執筆の支援チームもあります。
真由美
自治医科大学の先生方であれば、先輩たちがたくさん県内で働いていらっしゃるので、困ったことがあれば直接連絡して相談できる環境があります。一方で私は、日向の開業医の先生や、延岡の医師会の先生方に相談させていただくことが多く、医師会の会合にも積極的に出て、顔を広げていくことで、相談しやすい環境を自ら作っていくようにしています。
公貴
最近では、自治医科大学でも、宮崎大学医学部附属病院でも、医師会でも、女性医師の働き方支援に力を入れていると聞いています。
真由美
へき地でこそ支援があると良いなと思ったのは、夜間保育や病児保育などの環境ですね。最近、日向市に「お倉が浜Kidsクリニック」という、病児保育をしてくれるところができました。今までは三股町の実家に預けに行って、夜中に迎えに行くというような状況だったのですが、往復にかかる時間を考えると、本当にありがたいですね。公的でも病院内でもいいので、保育の環境整備が整うと、もっと働きやすくなると思います。
真由美
総合病院ではなかったような、患者さんや家族の方との世間話もその一つですね。看護師さんもずっとこの地域で生活してきた方たちなので、患者さんのことをよく知っています。疾患を診ることも大事ですが、生活や家族背景を知るために、患者さんの家に行ってみるというのもありだと思います。
公貴
地域医療の現場では、急性期から慢性期までの様々な疾病に対応するだけでなく、患者さんの生活背景も含めて診療方針を考えます。領域の幅が広いので難しいことも多いですが、そこがまた面白いところでもあります。
また、地域の方々と交流して過ごす時間もとても楽しく、これは地域医療だけの特権ですね。そして何より、臨床研修で学んだ知識を活かせる場でもあります。研修医の時に学んだ知識が、ふとした瞬間に役に立つことがあってそれもまた楽しみの一つです。
美郷町国民健康保険西郷病院
所在地:〒883-1101 宮崎県東臼杵郡美郷町西郷田代29
電話:0982-66-3141
病床数:29床
診療科目:内科(人工透析含む)、整形外科、放射線科、リハビリテーション科
美郷町国民健康保険西郷病院
所在地:〒883-1101 宮崎県東臼杵郡美郷町西郷田代29
電話:0982-66-3141
病床数:29床
診療科目:内科(人工透析含む)、整形外科、放射線科、リハビリテーション科