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上園 保仁氏

プロフィール

上園 保仁(うえぞの やすひと)

  • 出身高校:宮崎県立延岡西高等学校
  • 1985年 産業医科大学医学部卒業
  • 1989年 産業医科大学博士課程を修了
  • 1991年 米国カリフォルニア工科大学生物学部門に留学
  • 1992年 産業医科大学医学部 助手
  • 1994年 産業医科大学医学部 講師
  • 1999年 宮崎医科大学 助手
  • 2000年 長崎大学医学部 講師
  • 2004年 長崎大学医学部 助教授
  • 2009年 国立がん研究センター
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日本のがん治療の最前線・国立がんセンターで新薬開発の基礎研究から臨床への橋渡し役を担っている。

がん治療の現場では「疼痛緩和ケア」という視点で漢方薬の有効性が取りざたされている。がんになると、抗がん剤治療で、全身に副作用が出る場合が多く、多くのがん患者が、その副作用で、食事や体力・気力を奪われ、つらい日々を送っている。

上園医師が漢方薬に関心を持ったのは、その全身に働きかける効果。がん患者が苦しむ抗がん剤の副作用を押さえる効果が漢方薬にあるのではと着目。身体に負担を与え、副作用の強い、西洋医学の抗がん剤とともに、全身を緩和する体に優しい薬となるのでは考えている。

西洋医学の分野からは漢方薬は未分化の世界だが、2000年以降、少しずつエビデンスとなるデータが揃ってきている。また日本の品質管理のレベルは高く、漢方薬の製造においても世界をリードしていける可能性があり、成長産業として基礎研究の成果が期待されている。

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長崎大学では、もともと痛みの研究をやっていたのですが、モルヒネが効かないがん患者さんが一定数いるわけです。毎年37万人ぐらいががんで亡くなりますが、モルヒネで痛みが緩和出来る人が8割ぐらい。残りの2割とは言っても5〜6万人は多いですよね。それが緩和ケアの研究に入った動機です。それが、たまたまがん研究センターの所長の耳に入り、がん研究センターに緩和ケアの研究所を設立する際に、お声掛けいただいたのが、今に至ります。

研究しようと思った分野が患者さんに還元できるというのが最大のモチベーションです。医師としての研究ですので、最終的なアウトカムというのは患者さんへの還元なんですね。当時、私が携わっていた研究は、病気の原因となる蛋白質の研究で、薬ができると患者さんへの福音になるねというのは、私自身にとっても医師としての幸福でした。

私たちの時代は「漢方なんて」と薬理学者にバカにされていましたが、2008年、北海道大学は武田宏司氏の論文が『Gastroenterology』誌に掲載され、「六君子湯」が抗がん剤によって誘発された食欲不振に対して改善効果を示すことが発表されたんですね。その権威ある学術誌に漢方薬の論文が通るなんて、頭を殴られたような衝撃でした。

その先生に倣って、センターでも実験を始めました。動物実験から治験まで、実際に効く人が多いんですね。全員に効くわけではないのですが、抗がん剤のセカンドライン・サードラインに比べれば、遥かに効くということも分かってきました。

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漢方に興味を持ったのは、450年前に日本がオリジナルを創ったということと、今残ってきているのが148種類あるのですが、それらの漢方薬を紐解くと、蛋白質に効いているということが解ってきたんですね。今残っている漢方薬は歴史上、経験の中で知ってきたことだろうなという想いに至り、じゃあこれを西洋医学のアッセイ(評価)系に試してみたところ、なぜ漢方薬がミックスになったかというのが判明してきたんです。西洋医学の薬は単品ですよね、効かそうと思うと濃度を上げなくてはいけない。漢方薬は組み合わせであるが故に、高い濃度は必要ないんです。実験すると、1+1+1が10の働きになる。低い濃度処方できれば副作用も起きにくいし、なんて理詰めな薬だろうということに感動しました。

厚生労働省の下のがん研究センターですので、いかにがん患者さんに役立てるかというのがアウトカムですよね。西洋医学では対処しようのない食思不振や眩暈、倦怠感などを治せるという魅力に憑りつかれました。

センターでの漢方の研究と導入に際し、腫瘍内科医の先生方の壁はありました。一番大事なのはエビデンスで、漢方ではプラセボをしていませんでしたから。ところが2008年頃から、食品技術の進化で味も匂いも食感も一緒の、薬の効果のない偽物が作れるようになり、二重盲検試験が出来るようになったんです。このエビデンスが取れるようになったのは時代的にもラッキーでした。

その効果を分かってもらおうと、漢方キャラバンを始めました。まだ大都市圏しか回れていませんが、「明日から使います!」と言ってくれる先生も現れ、処方権のあるお医者さんや、薬剤師さんからからそういう言葉が出てくるのは、最上の喜びです。情報はどこに居ても手に入れられるので、常に新しい聞く耳を、眺める目を持ってほしいですね。医療は未完成です。これでいいということはありません。

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実験は何が起こるかわかりません。成功するには、諦めないことが重要です。また、日本の品質管理技術を活かした、漢方の生産にも期待しています。アメリカのFDAでも医療費削減を目的に「大建中湯」という漢方を臨床治験薬としての実験が始まっています。インドにアーユルヴェーダがあり、韓国に漢医があり中国に中医がありますが、日本以上のクオリティコントロールができている国はありません。日本のメーカーの漢方ならば、どこで買っても品質は同じです。まさに工業技術です。その部分では、日本は得していますね。

問題になるのが原料の9割が輸入という点です。今は中国でしか採れないような草が値上がりしています。これを日本で作れないかと。タバコの生産地を漢方の原料となる草に切り替えるのもいいのですが、残留農薬をコントロールする技術が必要になってきますね。そこがマッチングできると、日本の高い農業技術を活かした生産が可能になります。実際に北海道の夕張や熊本県の朝霧町では漢方の生産が始まりました。宮崎の新産業としても期待できるのではないでしょうか。

最後に先生にとっての医療とは?

たくさんの職種をベストでこなす、そして、統合をめざし患者さんへ還すもの 上園 保仁氏氏

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