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桐ケ谷 大淳氏

プロフィール

大阪府出身。2001年、滋賀医科大学卒業。社団法人地域医療振興協会地域医療研修センター、横須賀市立うわまち病院にて後期研修。田子診療所所長(静岡県西伊豆町)、国民健康保険近江診療所所長(滋賀県米原市)を経て、2012 年4月に日南市立中部病院に赴任。2014 年10 月より、宮崎大学医学部地域医療・総合診療医学講座の助教として学生教育や研修医指導に携わっている。日本プライマリ・ケア連合学会所属。

町医者への憧れ

診察風景1

「在宅医療に興味を持ったのは、大阪の診療所実習にて、訪問診療で何件か患者さんのお宅を回ったときです。それまでは大学病院や大規模病院での実習しか受けていませんでしたので、生活に根付いた、患者さんとの距離が近い、真摯に受け答えしている昔ながらの町医者の姿に憧れました。」

卒業後は、滋賀医科大学の総合診療部に入局し、スーパーローテートでいろいろな診療科を回っていた。大学病院だけあって、特殊な症例が多かったので、2年目はプライマリ・ケアやコモンディジーズを学びたいと市中病院に移り、3年目に地域医療振興協会に地域医療研修センターが設立され、後期研修医の募集に応募、本格的に地域医療の道へと踏み出した。

「協会の研修病院に籍を置きながら、3ヵ月に1回のペースで、へき地の診療所や病院に1週間程度研修に行くのですが、地域によって違いがあったり、医師の役割も変わるのを実感しました。できたばかりの研修センターでしたが、EBM(evidence-based medicine)領域で有名な名郷直樹センター長のもと、指導医の先生に教わったり、自分たちで勉強会を開いたりと、一人でへき地に行っても大丈夫なように、現場とセンター両方で、多くを学べる機会がありました。」

地域医療振興協会は、自治医科大学出身の医師が中心となって組織され、研修センターでも地域医療と家庭医療の研修プログラムや、総合診療医としての専門医プログラムなどジェネラリストの育成に取組んでいる。また、シニアの総合医へのキャリアチェンジをバックアップする再研修プログラムも特徴の一つ。

ひとり診療所で奮闘

桐ケ谷氏1

後期研修も終わりに近づき、力を試してみようと西伊豆の田子診療所に赴
任。前任の所長の時に、代診で通っていた縁もあり、知らない場所ではなかったが、いきなりひとり診療所での挑戦となった。

「外来が一日60人程度で、週に1日は訪問診療。診療所の隣の医師官舎に住み、診療所に掛かってくる電話は自らの携帯電話に転送。週に1、2回は時間外に対応していた。

「今思えば、やはり一人だといろいろストレスがあったのかなと。子供からお年寄りまで、いろんなことに対応しないといけないですし、大変な反面、患者さんに教わりながらものすごく勉強させてもらいましたね。たまに心筋梗塞など重症の患者さんが受診されて来ると、中伊豆の順天堂大学附属病院にドクターヘリの出動を要請したり、年に何回かは冷や汗をかくような経験もしました。また、リアス式海岸の中にある伊豆の漁師町で、急傾斜の途中に家があったりするようなところへ訪問診療をしたりしていました。宮崎とは違う海岸風景でしたね。」

子育て環境を求めて

桐ケ谷氏2

近江診療所では、午前中に20人ほど外来を診て、午後から訪問診療で外に出るという日々。結婚して子供が生まれ、どちらかの地元で暮らすことを検討し始め、インターネットで勤務先を探し、宮崎県の医療薬務課にコンタクトをとった。折しも、日南市立中部病院の内科医がゼロになるという新聞記事を読み、力になれるならと移住を決心した。

「宮崎の生活環境は素晴らしいですね。学会に行くとか勉強会に出るとかは多少不便なところはありますが。子育て面では妻の実家にも手伝ってもらっています。病院スタッフは穏やかな方が多くて、常勤医師も増えて内科医は現在3名体制です。もう少し人が増えると、病院としても新しい取組みがしやすくなるのかなと思います。」

医療連携と役割分担

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桐ケ谷医師は日南市の地域医療対策室との連携で、出前講座での講師や日南塾という地域住民のオピニオンリーダー育成にも参画している。

「日南市は、人口当たりの病院も病床数も多く、医療資源を増やしていくというよりも、今後はそれぞれ病院ごとの役割分担を明確にして、地域完結型の医療提供を目指すのが地域への貢献だと思います。その中でも中部病院の役割は、回復期・リハビリテーションの核になること、在宅医療の旗振り役となることです。日南市でICTシステムが動き始めますので、多職種との連携や調整役などを在宅医療連携拠点室で取りまとめていく予定です。急性期と重症患者は県立日南病院で、医療機関同士の連携も重要になりますね。」

在宅医療の充実に向けて

診察風景2

もともと中部病院では、訪問診療・訪問看護に取組んでいたが、医師が減ったことで一時期中断していた。一昨年春から在宅療養支援病院となり、24時間365日体制を整えた。他の病院からの紹介も増え、現在は十数件を受け持っている。

「基本的には私一人で回っているので、数を増やし続けるのは難しいのですが、何件か開業医で訪問診療をされている先生もいらっしゃいますし、中部病院としては、医療依存度の高い患者さんや、開業医の先生方が行きにくい市街地から離れた地域をカバーしながら、多職種連携や在宅医療の輪が広がっていくといいなと思っています。」

週に四日、午後を訪問診療に当てている。1軒20分程度の診察時間。医師からすると、慌ただしい外来よりもじっくり話ができて、どういうサポートが必要か、患者と家族の生活が見えるのが強み。患者の側も慣れ親しんだ環境で、自分のペースで生活できる。

「がん終末期の患者さんが多いですが、病院だと痛い痛いと言っていたのが、家に帰るだけで痛みが和らいだりする人もいて、自宅が癒しの場になるんですね。入院していると昼夜逆転したり、せん妄も酷くなりがちなので、在宅のメリットは大きいと思います。」

在宅でも使いやすい医療器具や薬も増えているが、家族の介護力も必要なため、そのあたりを介護サービスで支援していくなどの課題もある。

「日南市には地域医療対策室ができていろいろな連携が取りやすくなってきています。2025年までに地域包括ケアのモデルを各市町村で作って行こうという取組みがありますが、日南市モデルを作って行きたいです。」

桐ヶ谷医師からのメッセージ

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20世紀の医療は、長寿と病気の根治が大きなテーマでした。治す医療のデメリットや生活を支える医療への転換も考慮して、もちろん治せる病気であれば治療しますが、QOLを上げるための関わり方も医療者の仕事ではないかと考えています。

人は皆、誰でも死んでいくものです。家族が亡くなる場面に立ち会うというのは、一番の命の授業です。子供や孫にそのような経過を経験してもらうことは、家族にとって大きな財産になるはずです。そこに医療者がどう関わるかが、在宅医療における医師と患者と家族のアイデンティティにもなります。

地域医療と一口に言っても、地域によって形が違ったり、求められる役割が変わったりします。専門医コースはある程度レールが敷かれていて分かりやすいのですが、地域医療や総合医など、ジェネラリストの道はキャリアパスが分かりにくく、途中で不安に思う人もいるでしょう。

医師としてのアイデンティティが定まらずに違う道に進む人もいるのですが、私が後期研修の頃に言われたのが、「どういうコースをたどっても、10年経ったらある程度のことは一人前になるので焦ることはないし、紆余曲折があっていい。」

地域医療の現場には住民がいて、医師が来るのを待っています。求められるものに自分をいかに合わせられるか、自分のしたいことだけではなくて、地域の人の求めるものに応えることに喜びを見出すことができるか、患者さんを先生として、まずは現場に出てみることが重要です。

最後に先生にとっての医療とは?

地域に関わっていくための手段 日南市立中部病院 地域医療科・内科医長 桐ケ谷大淳氏

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