ここ数年、救急医療体制の強化や研修医の増加など、進展が目覚ましい県立宮崎病院。高次医療機関として専門的な医療を提供しながら、地域医療の支援にも本格的に取り組みはじめた。へき地の診療応援を目的として設立した「地域医療科」と、病院内のゲートキーパーの役割を担う「総合診療科」。それぞれのキーパーソンが語る地域医療の未来とは?
専門性を身につけながらも、地域医療を担う新たな枠組みとして設立されたのが「地域医療科」である。地域医療科は、独立した診療科ではなく、メンバーは各診療科に所属しながら、地域医療科にも籍を置き、院外活動として、へき地医療機関での代診や出張診療を行う。
それぞれの診療科で専門的な研さんを積むことも、へき地医療機関との連携で救急医療、総合診療のスキルアップや地域のニーズを踏まえた全人的医療を学ぶことも可能で、専門医と総合医のどちらの形でも地域医療を支援できるようメンバーそれぞれが自己研さんしている。その一人である中村医師は、さらなる地域支援の拡充を目指している。
一方、複合診療のマネジメントや救命救急科の強化などが急務であったことから、2015年に新設されたのが「総合診療科」である。当時、宮崎大学医学部附属病院救急部の指導医と一緒に若手医師向けの勉強会を精力的に開催していた石井医師に白羽の矢が立った。
総合診療科は、内科の初診外来と救急外来の内科コンサルト、地域医療のニーズに応じた高齢者や複合診療の病棟マネジメントを主軸に、指導医と研修医がスクラムを組み、チームで診療を行う。原因不明の未診断疾患や複合疾患の対応など、常に最善の診療と判断を求められるゲートキーパーの役割を担っている。
いしい よしひろ/群馬県出身
2005年 金沢医科大学卒業
石川県城北病院 初期研修
2007年 福井大学医学部付属病院 救急科
2010年 福井県越前町織田病院 総合診療科
福井県南越前町今庄診療所
2011年 古賀総合病院 救急総合診療内科
2015年 県立宮崎病院 総合診療科
いしい よしひろ/群馬県出身
2005年 金沢医科大学卒業
石川県城北病院 初期研修
2007年 福井大学医学部付属病院 救急科
2010年 福井県越前町織田病院 総合診療科
福井県南越前町今庄診療所
2011年 古賀総合病院 救急総合診療内科
2015年 県立宮崎病院 総合診療科
【専門】 総合内科
【学会認定医等】 日本内科学会総合内科専門医、日本プライマリ・ケア 連合学会認定指導医、日本救急医学会専門医、JMECCインストラクター
【所属学会】 日本内科学会、日本プライマリ・ケア連合学会、日本救急医学会
【書籍】 卒後10年目総合内科医の診断術 中外医学社
総合診療科では、ゲートキーパー、診断未・難症例や複合疾患の対応、専門医不足・少数領域のカバーの3つの役割を掲げています。ある程度の経験を積んだ内科医であれば、内科一般に通じ、広く対応できるようになるとは思いますが、当科では『内科医であれば誰でもできる診療』の一歩先を目指しています。
私は、民医連系病院の内科の急性期病棟で初期研修を受け、後期研修はER型の福井大学救急部を修行の場として選びました。研修期間には急性期医療だけでなく、へき地や医師不足の病院のサポートも選択できました。へき地の一人診療所の医師が1日休みたいとか、疲れてしまってしばらく病院を離れたいという先生たちをフォローするために、救急部から医師を派遣するという仕組みがありました。私も半年ほどの間ですが、雪深い山間部の診療所に手伝いにいき、ここでの経験が自分の医師人生を大きく変えることになりました。
救急専門医として一通りERを回せるようになってからも、診療所での経験から、病気だけでなく、生活背景まで含めて診れるような医師になりたいという思いと、もともと内科の診断学に興味があったので、総合内科や総合診療科という臓器にとらわれない診療ができる分野に進むことを選択しました。
2011年より、古賀総合病院で救急総合診療科を開設し、その後、雨田先生に誘われて、県立病院で総合診療科を開設しました。自分の持てる力を発揮できる環境であることや、多くの研修医の教育に携われることが決め手でしたね。
総合診療科の研修では、将来、開業したい方から地域中核病院で内科診療に従事したい方、診療所で働きたい方、臓器別専門科に進む前に内科の基盤を身につけたい方などを対象にしています。難症例や複雑な症例に対応するためには、複数の分野の知識を『何となく知っている』ではなく、専門医レベルまで求められることもあります。カンファレンスでは、幅広い知識や経験を持つ臓器別専門医とディスカッションを行い、考え得る最善を目指して診療に当たっています。当科を選択した研修医は、コモンディジーズから診断難症例、救急症例と幅広く経験することができ、診断や治療だけでなく、退院後の生活背景まで想像して、何を提供することが大事なのかを考えてもらうようにしています。
いずれは、総合診療科で働く医師が、地域医療科のメンバーとともにワンポイントでもいいので、地域の医師不足病院をサポートできるといいですね。そこでいい出会いでもあれば、地域医療の世界に定住するというモデルも生まれてくると思っています。
なかむら たけし/都城市出身
1992年 自治医科大学卒業
椎葉病院、南郷病院、諸塚病院
2002年 自治医科大学附属さいたま医療センター
2007年 西米良診療所
2009年 県立宮崎病院にて現職
なかむら たけし/都城市出身
1992年 自治医科大学卒業
椎葉病院、南郷病院、諸塚病院
2002年 自治医科大学附属さいたま医療センター
2007年 西米良診療所
2009年 県立宮崎病院にて現職
【専門】 一般消化器外科
【学会認定医等】 日本外科学会専門医、日本消化器外科学会 専門医、日本医師会認定産業医、JATEC インストラクター、日本がん治療認定医機構認定医、消化器がん外科治療認定医
【所属学会】 日本外科学会、日本消化器病学会、日本消化器外科学会、日本Acute Care Surgery学会、日本内視鏡外科学会、日本医療マネジメント学会
地域医療科は、「地域医療を何とかしたい」という志を持った医師の集まりです。現在8人で、普段はそれぞれ専門の診療科に所属していて、医師確保に困っている医療機関からの要請に応じる形で支援を行っています。2015年度は11回、2016年度は9回の短期間の診療支援を行いました。将来的には短期間の支援だけでなく、産休や育休などの女性医師や、研修等でしばらく病院を離れなければならない医師を中長期的に支援することなども想定しています。
実は今まで、宮崎には「地域医療をやってみたい」という医師が集まる拠点がありませんでした。専門診療科が何であれ、地域を何とかしたいという志を持つ医師は少なくありません。専門領域の枠を超えて地域医療を支援しようという体制が、この地域医療科なんです。
現在は、自治医科大学の卒業生で構成されています。若手医師が多いので、専門領域の研修の方を優先してはいますが、「サブスペシャリティ(専門分野)を持つジェネラリスト」を目標として、日々の研さんに努めています。
私自身も自治医科大学の出身で、義務年限で地域を回っているときに住民の方々と関わりながらいろいろな面で大きくしてもらいました。地域は人を育てる、それが地域医療の魅力の一つだと実感しました。私は学生のころから外科医の道に進むと決めていたのですが、義務年限後に、専門医の道と、地域医療に携わりたいという思いを両立させるには、どうしたらいいだろうとずっと考えていました。専門領域で働きながらも、こういう思いを持っている先生たちは、実は結構いるんですよ。
今後は、県外在住医師のUIJターンの積極的な受け入れと、宮崎大学の地域枠・地域特別枠の受け皿の一つとして、専門領域を学びながら、継続的に地域医療を支援できる人材を育成する一大拠点にしていければと考えています。地域医療科にはやる気さえあれば、誰でも入ることができます。
診療科同士の垣根が低く、ベテラン医師から研修医まで、和気あいあいとしているのが県立宮崎病院の特徴です。子どもから高齢者まで、コモンディジーズから高度医療まで、豊富な症例を経験できる、ちょうどいい規模の病院です。地域医療に興味のある方、一緒にやってみたい方はぜひ見学においでください。
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診療科同士の垣根が低く、ベテラン医師から研修医まで、和気あいあいとしているのが県立宮崎病院の特徴です。子どもから高齢者まで、コモンディジーズから高度医療まで、豊富な症例を経験できる、ちょうどいい規模の病院です。地域医療に興味のある方、一緒にやってみたい方はぜひ見学においでください。