都城市出身。1996年、自治医科大学卒業後、宮崎県内各地の公立病院で、内科・外科・救急医療に携わる。2010年に宮崎大学医学部地域医療学講座(現・宮崎大学医学部地域医療・総合診療医学講座)で、医療者育成の取組みを開始。県立日南病院に地域総合医育成サテライトセンターを立ち上げ、地域医療に特化した研修プログラムを開発。2015年より串間市民病院に移り、総合診療医の育成に注力している。
高校生の頃から、医師不足の地域で働く医師を目指して自治医科大学に入りました。「医療の谷間に灯をともす」と特に地域医療に力を入れている大学ですし、地域に溶け込んで働きたいという思いは今でも変わらないままです。
自治医科大学は各都道府県から2~3人が選抜されて、修学資金の貸与を受け、卒業後は、出身地の病院や診療所・保健所などに勤務するのですが、その後もずっと地域医療に携わるのかというと、実際はそうでもありません。
専門医の道に進んだり、開業医になったり、いろいろなキャリアがあります。僕は「赤ひげ先生」に憧れていましたので、宮崎だけではなく、全国のへき地の病院に行ったり、国際医療の世界で働くことも考えていました。今の仕事がなければ、海外に飛び出すのもいいですね!
卒業後、初めの2年間は、県立宮崎病院に勤務して修行の日々。初めの6カ月は血液内科が専門の福田先生についていたので、白血病の患者さんと毎日一緒に居て、亡くなる人も見てきました。辛かったですが、医師としての姿勢は、福田先生の背中を見て学んだ気がします。
3年目からは、県の要請のままにへき地の病院や診療所を渡り歩きました。椎葉村、諸塚村、西米良村、日南市と、どこも思い出深いですが、大学の同級生の金丸先生(現・宮崎大学医学部附属病院救命救急センター副センター長)が頑張っていたことがとても大きな励みになりました。実力もピカイチですが、人として立派です。彼がいたからこそ、負けないぞと思って頑張れたという面もあります。
内科も外科も診療科にとらわれず、住民に必要とされることであれば、なんでもやりました。時には救急車も運転しましたし、当直も2日に1度は入っていました。0歳時健診のあとに108歳を診るなんてこともよくありましたよ。
現在は県南をフィールドとして頑張っています。南那珂地域の中核病院は県立日南病院の一つだけ、串間市も日南市もそれぞれ小さな町で、全体を見ることができるちょうど良い規模なんです。
串間市民病院は、隣に市の総合保健福祉センターがあり、患者さんの全てを診るのはもちろんですが、町の医療・福祉体制も合わせて描くことができて、ここ1年それを任されているので、医師になってからの20年間で一番やりがいがありますね。黒木院長のバックアップも心強く、早川先生(県立日南病院)が研修で来ていた5年前ぐらいから、ここを教育のフィールドにという話があって、少しずつ取り組み始めていましたので。
何よりも場が大事だと思っています。理論ではなくて、地域の医療全てを体験できる場があれば、医師は患者さんやスタッフさんに自然に育てられます。ただ、医学生実習も初期研修医も後期研修医も受け入れていますので、あまり飛ばしすぎないようにしています。僕のペースというよりは、みんなでのんびりやるのもいいのかな、と。
僕はみんなに協力してもらって、バランスを取るコーディネーターの役割です。プレイヤーをやりたがる人は多いですが、現実的なコーディネートをすることも重要だと思うようになりました。
今年から講座の教授として吉村先生に来ていただきました。僕らが自治医大の3~4年生のときに受けた地域医療の授業が最初の縁で、とにかく、ある人あるものを全部使って一所懸命、住民のために医療を提供するという姿勢は、出会った頃と変わりありません。地域医療といえば、知らない人はいない方ですし、アート&サイエンスと言いますが、医療も含めた全体の将来構想を描ける方なんです。宮崎のために帰ってきていただけると聞いたときは、嬉しかったですし、感謝しています。
2017年度から始まる新専門医制度を見据えて、今開発しているのが「6つのコンピテンシー」に則って、3年間で総合専門医を取るためのプログラムです。診療所や中核病院で、小児科・救急などの診療科を自由に学べるカリキュラムです。
大切なのは、自分がこういう医師になりたいとか、何かのスペシャリストになりたいというのではなく、患者の家族や社会的な背景まで包括的なプライマリ・ケアを一手に引き受け、病気になる前の予防も含めて、地域のスペシャリストになることです。だから、今の僕の専門は「串間」なんです。
ここでは、いろんな医療スタッフと垣根なく仕事をすることになるので、本当の意味でのチーム医療というものを実感できます。患者さんとの付き合いも長くなりますので、仲良くなりますし、お互いに「ありがとう」と言える環境があるだけで、やりがいが生まれますよね。
もう一つは、生活の質が保てます。忙しすぎず、自分の生活も大事にしながら、住民の一人として「人間らしく」生きていけることこそが、地域に根差す医療の本質だと考えています。
研修医や学生には、理論よりも体験することで、患者さんの疾患だけでなく、年代や生活背景も考えて対応できるような医師になってほしいので、まず診て話してみるというファーストタッチを任せています。スタッフや患者さんも臨床研修や実習で学びやすいように気を使ってくれています。
もともと開業医が少ない地域ですので、串間市民病院は、かかりつけ医の機能を持っています。また、ある程度高いレベルの検査や手術もできる設備が整っていて、地域で完結できる医療体制があります。
地域医療を全て体験したいという研修医にとっても臨床の経験が積めて、知的好奇心も満たせる理想的な環境があります。
この地域の魅力は、人が優しくて、気候が良い、ご飯が美味しい。自然がきれいで余計なものがない。ここでは、やっつけ仕事ではなく、患者のためにもう一歩深く考えて仕事にじっくり取り組むことができます。地域医療の可能性は無限大です。新しい可能性がたくさん眠っていると思っています。
今はまだ、地域医療や総合診療を目指す人はそれほど多くはないかもしれませんが、今後10年で医療の形が大きく変わります。地域に出て輝ける人材を育てるためにも、僕がここで続けていくことでキャリアモデルになれればと思っていますし、やる気のある若い先生たちと一緒に新しい医療体制を立ち上げていくことに、一番の魅力を感じています。