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柴田 剛徳 氏

「宮崎で世界水準の医療を実践する。」そのための労を惜しまず、臨床と研究にいそしむ日々。柴田医師の率いる宮崎市郡医師会病院心臓病センターには、トップレベルの医師たちの強烈な矜持と努力があった。

プロフィール

プロフィール写真

福岡県北九州市出身、熊本大学医学部卒業。熊本大学医学部附属病院と福岡徳洲会病院で全科ローテート研修。熊本中央病院の循環器内科で本格的に心臓病の勉強を始め、その後日本の最高峰の心臓病センターの倉敷中央病院にて勤務。平成10年より宮崎市郡医師会病院へ。

【専門領域】
循環器病学一般・心血管インターベンション・心臓リハビリテーション・植え込み型除細動器研修医・ペーシングによる心不全治療研修医・末梢血管インターベンション

町医者の優しさに憧れた少年期

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現在の精悍な姿からは想像もつかないが、子どもの頃は病弱で、小児科によくかかっていたという柴田医師。

「痩せていて体力もなく、しょっちゅう熱を出しては、両親に心配かけていたと思います。気管支喘息や副鼻腔炎で、よく小児科や耳鼻科に連れられて行ってましたが、本当に、快く対応してくれる優しいお医者さんばかりでしたね。」

献身的な「町のお医者さん」の姿に憧れ、物心ついたときには、そんな医師になりたいと思うようになっていた。

「自分が子どもの頃そうだったから、ということもあるのですが、目の前の苦しんでいる患者さんに救いの手を差し伸べられる、それができる職業というのは医師しかないなと。」

専門医へのターニングポイント

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医学生になり、当初はプライマリ・ケアの内科全般を診たいと医師への第一歩を踏み出したが、福岡徳洲会病院の研修の中で、初めて救急の現場を目の当たりにする。ある日、劇症型心筋炎の患者が搬送されてきたのが、研修医時代最大のインパクトだった。

「70歳ぐらいの患者さんで、心室細動、心室頻拍を繰り返していて、今であれば、経皮的人工心肺を装着して救命するんですが、当時は、大動脈内バルーンパンピングの補助がせいぜいで、心臓マッサージを小1時間継続、やっと正常な脈に戻って救命できたんですね。今でも鮮明に覚えています。救急では心臓疾患の患者さんを診ることが多くて、心肺蘇生の重要性を再認識しました。」

カテーテル治療で、急性心筋梗塞患者の症状や病態が劇的に改善し、元気に退院していく姿を見て感動し、この奇跡の治療に携わりたいという思いを強くした。先輩に相談し、熊本中央病院の循環器内科で本格的に心臓病の勉強を始めることとなる。

そこでは、上級医について心臓血管病治療の基本を学び、生活習慣病を防止するための食生活・運動療法・禁煙から、薬物療法・カテーテル治療・外科手術を学んだ。日々の当直を二人三脚で乗り切っていたのも、今となってはいい経験だったと語る。

「指導してくれる先生がどれだけ熱心で、モチベーションを上げてくれるかで、その後が大きく変わるんです。上級医の患者さんへの想いやスタッフへの気遣い、その背中を見て、この分野でやってみようと決意したのが現在に繋がっています。」

心臓病センターの存在意義

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20年ほど前は、宮崎県内の重症心臓病患者の多くは、熊本や北九州など県外に搬送されていたという。それを憂いた当時の宮崎市郡医師会の綾部隆夫会長が、何とかして宮崎で救えるようにということで医師会病院に心臓病センターを設立。当時、国内最高峰の心臓病センターである倉敷中央病院で働いていた柴田医師に白羽の矢が立った。

「ここへ来た16年前、それまでいた倉敷中央病院の心臓病センターから比べると循環器の分野はかなり遅れていました。他の病院も十分に救急を診れる体制ではなく、重症の患者さんがたらい回しになっているという状況もありました。ドクターの数も少ないし、設備も整っていないわけだから致し方ないという面もありましたが、そのトレニーングさえままならないという現状でした。そこで私たちは、綾部会長の指揮の下、スタッフを集め、設備の導入も少しずつ行っていきました。」

宮崎市郡医師会病院心臓病センターのカテーテル治療症例数は年間で900件を超え、その内、緊急診療の件数も300件を超える(2013年度)。医療実績は国内トップレベルにあり、すべての心臓病患者に対する医療が宮崎県内で完結できることを使命としている。

検査部門としては、一般検査(血液生化学など)に加え、ホルター心電図、心臓、血管超音波検査、運動負荷テスト、心臓核医学検査、心臓CT検査(320列)、冠動脈造影検査、電気生理学的検査などを行っている。

治療部門としては、虚血性心疾患(狭心症、急性心筋梗塞)にはカテーテル治療(バルーン)、ステント、ロータブレーターなどのほか、外科的手術として冠動脈バイパス手術。心臓弁膜症は薬物療法と外科的手術。不整脈は、薬物療法に加え、頻拍性不整脈に対してカテーテルアブレーション、除脈性不整脈に対してペースメーカー植え込み術があり、心不全に対しては、薬物療法に加え、両室ペーシングという治療法など、ほとんどの心疾患に対応可能で心臓リハビリテーションも行う。今後、更に質の高い医療を提供すべく、大動脈弁狭窄症や心房中隔欠損症に対する経皮的カテーテル治療ができるように進めている。

「まずは、365日24時間の救急医療体制が基本だと考えています。ある時は先端医療であり、ある時は従来の治療であり、患者さんによって求める医療水準や、年齢による回復生活レベルも違いますので、その上で、いま日本で出来る最善の医療を提供するために、私たちも日々進化していかなければなりません。まだまだ施設と人の面では充分ではありませんが、現院長川名先生のもとMCCUを導入するなど一歩一歩前進しているところです。」

臨床・教育・研究が3本柱

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13名いるセンターの循環器内科医で県内の出身者は2名のみ。むしろ県外から研修でこのセンターへ来ている医師の方が多い。

「全国から勉強に来たいと思われるようなセンターにしたいというのが目標で、もちろん診療が第一ですが、同じぐらい研修教育にも力を入れています。北海道など遠く離れた地域から学びに来ている医師たちがいるわけですから、彼らを受け入れるためにはそれなりの教育水準を保つ必要があります。そしてもう一つが研究です。年間150題ほどの発表の実績があるのですが、診療・教育・研究すべてを並行して行うことで高いレベルの医療を展開し、宮崎から世界に向けて成果を発信することでもモチベーションを維持しています。」

「なによりも教育を大切にしています。これは、私自身が先輩から学んだからです。教育は日常診療以外に死因や治療効果を検討するため剖検、CPCを大学病院協力のもと行っています。また、国内外の医師らがカテーテル治療の勉強を行えるように、ワークショップを開催しています。このプログラムは、カテーテル治療の専門医を目指す医師のため、治療見学・施設見学・症例検討会などが含まれていて、昨年は16回行い、国内外からの多数のドクターの参加がありました。また、地域貢献への取り組みとして、地元の高校生を対象にしたブラックジャックセミナーというものを川名院長に賛同いただき、開催しました。これは、心臓カテーテルや縫合手術、エコー検査、リハビリテーションの実際を体験して、医師の仕事に興味を持ってもらうのが目的で、将来は医師を目指していただき、願わくば宮崎の医療に携わっていただきたいという思いで、病院を上げてスタッフ総出で実施しました。」

地方の医療の問題のひとつに、せっかく優秀な医師を輩出しても、活躍の場を求めて地元から人材が流出してしまう、また、戻っても専門医療を活かして働ける環境がないという現実がある。その一つの解決策として、専門分野に特化することで、地域住民への充実した医療の提供と同時に、後進の医師の教育環境を作り上げるという宮崎市郡医会病院心臓病センターの取り組みは、宮崎県の医療の大きな希望となっていて、後期研修はこのセンターで、と、実際に宮崎に帰還する医師が増えてきている。(26年度は3名)また、心臓治療薬やデバイスの治験でも全国の病院の中から選定されるぐらいまで認知されるようになっている。

「宮崎県だけの問題ではなく、ここで勉強した医師たちが各地で活躍してほしいと期待しています。ここにはやる気のある医師が集まるのでアクティビティはものすごく高いんです。」

理想は高く、希望に満ちている。

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心臓病センターでは、平成24年10月に心臓病専用のドクターカー(MCCU=Mobile Coronary Care Unit)を導入。24時間体制で循環器内科医と看護師が出動し、急性期の心臓疾患に対処できる設備を整えた。

ドクターとナースの他にドライバーも常駐し、ドクターカーにはテレビカメラとGPSが備わっていて、患者の状態やドクターカーの走行位置などはカテーテルの検査室やICUからモニタリングして把握できるようになっている。搬送患者の急変に対応しながら、緊急手術が必要な場合も、到着時間に合わせて院内の心臓血管外科医との連携が取りやすく、患者データは搬送中に電子カルテを作成し、伝達時間の短縮にも努めている。

導入から1年間での出動要請は57件。そのうち3割が近くに循環器疾患基幹病院がない地域への出動で、緊急のカテーテル治療による急性心筋梗塞の死亡率の低下に貢献している。また、ドクターヘリや地元の救急車とのランデブーで搬送時間もかなり短縮されてきている。まだ、月平均5回の出動件数だが、今後さらに実績とともに導入台数が増えれば、まさに県内医療の生命ネットワークとして浸透するものと期待されている。

モービルCCU外観、車内

MCCU(Mobile Coronary Care Unit)
「移動する冠動脈疾患集中治療室」
車体全長も幅も高さも従来の救急車より大きく、救急蘇生に必要な特殊な医療器具や薬剤を常備。

最後に先生にとっての医療とは?

目の前の病んでいる人に手を差し伸べること 柴田 剛徳 氏

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