近年、医学教育分野別認証評価の導入、2019年度改定に向けての臨床研修制度の見直し、新専門医制度開始など、医学教育・医師養成をめぐる諸制度は大きな変革期を迎えています。
このような状況に対応すべく、宮崎大学医学部では、臨床医学教育部門、看護実践教育部門、医療シミュレーション教育統括部門、医療人キャリア支援部門の4部門を統合した医療人育成支援センターを2015年10月に新設しました。


宮崎のために多様な人材を輩出したい
宮崎県には、宮崎大学しか医師養成機関がないのですが、医学生のサポートは大学の総務や学生支援課、初期研修医は卒後臨床研修センター、後期研修医となると各医療機関の診療科や教授単位で、それぞれ教育方針もバラバラになりがちでした。これを構造の問題と捉え、卒前・卒後・専門医に至るまで、教育者側の意思統一を図るというのが、センター設立の目的です。
第一の目標は、「地域医療の充実」です。家庭を診る総合診療医も、高度医療を担う医師もどちらも必要ですが、医師会・自治体・医療機関の連携を大学がスーパーバイズすることで、地域で働く医師の確保や育成強化、指導医となる教育人材の育成を推進します。医学部が一つしかないことが幸いして、医師会とも、行政とも関係性が良いのが、大きなアドバンテージです。すでに、日南では後期研修のためのサテライトセンターを立ち上げており、これから県内全域でも実績を積み上げていこうという段階です。

第二に、附属病院を持つ大学ならではの看護教育を推進したいというのが、大きな挑戦です。10年前に看護学科ができてからは看護教育の一端を担っていますが、育てるシステムが医師の養成よりも複雑です。さらに産休や育休などの休職があっても、キャリアが分断されないような復職支援体制を構築する必要があります。卒前・卒後の一貫した看護師養成のための看護教育専属の教員を置くというのは、全国でも類のない取組みです。
日本の医学界全体の問題なのですが、教育は研究や臨床の傍らで、人材もコストもかけないという風潮を変えていきたい。教育に携わる医療人に投資しなければ、未来はないと思っています。
このセンターから、宮崎のために多様な人材を輩出したい。医療人としての人間性の教育は当然として、多職種の関わるチーム医療のリーダーとなれる人材の育成が、使命だと考えています。地域医療や教育や高度専門医療、スーパードクターや赤ひげ先生、いろいろな分野に秀でた個性のある人材がそろっていることが地域のためであり、そこに序列は必要ありません。
教育と実践は表裏一体のものなので、教育者側も現場から離れてはダメです。大学病院は、教育と実践に最も適したフィールドであることは確かですが、各拠点の病院でも得意な専門分野の研修を分担することで、都市部の大病院に引けを取らない医療人教育ができるはずです。そのコーディネーターの役割が、このセンター設立の基本構想となっています。
Profile
群馬県前橋市出身
1980年、宮崎医科大学(現宮崎大学医学部)卒業。医学博士。生理学の基礎研究者として、また2010年より宮崎大学の副学長として国際連携を担当。2014年より宮崎大学医学部長に就任。2015年より宮崎大学に医療人育成支援センターを立ち上げ、県内医療教育の最高責任者としてグランドデザインを描く。


知識と仁術のバランスの取れた医療人を育てたい
もともと医学教育には興味があって、内科教員として、病棟実習を行う学生と接してきました。医学生を副主治医と位置付け、臨床参加型実習を実践すべく取り組み、卒後臨床研修センター教員を兼務するようになってからは、卒後教育にもかかわっています。
当センターは、卒前・卒後の教育を担当する部署であり、今までの経験を生かせるのではないかと思っています。また、当センターの前任の林教授が養成された「安息の会」という模擬患者さんのグループに協力していただき実施している医療面接実習にも参加しています。
今後、さらに模擬患者さんが必要とされる機会も増えてくるので、その養成にも関わっていきたいです。知識や技能だけでなく、仁術を大切にするバランスの取れた医療人を育てるお手伝いができたらなと思っています。
Profile
福岡県久留米市出身
宮崎医科大学を卒業後、宮崎大学医学部第二内科に入局。内科教員と卒後臨床研修センター教員を兼任し、卒前・卒後の教育に取り組んできた。2016年8 月より現職に就任。


女性医師の復職支援を強化したい
医学生・看護学生は、医師・看護師になるべく臨床実習を通して、医学・医療について知識技術を磨きますが、国家試験合格後、どのようにキャリアを積み上げていくかまでは想像がつかないようです。特に、女性では出産や育児といったライフステージによって、休職、離職を余儀なくされることが現実的な問題としてありますので、女性医師・看護師のキャリアサポートは、当センターのテーマの一つとして考えています。
具体的な取組みとして、実臨床から離れていた女性医師・看護師を対象に、一次救急や採血、気管挿管などのシミュレータを使用した実技を多く取り入れた復職支援プログラムを行っています。
また、医学生は他の学部学生よりも、身近に自分の将来像の参考となる先輩がいることが、自身のキャリアを考える上で有利です。
そこで、医学生のうちから医師としてのキャリアを具体的に考えてもらうため、「教育・指導」という関係から少し離れて「人生の先輩」として、現役医師の先生方と交流できる時間が作れないかという仕組みづくりを進めています。
Profile
宮崎市出身
京都大学農学部を卒業後、勤め人を経て、宮崎医科大学に再入学した異色の経歴を持つ。医学生の卒前教育から研修医のキャリア形成まで見通す良き兄貴的存在。


必要な時に適切な指導をコーディネート
初期研修医の2年間を苦労しないように、卒前教育で、知識や技能だけでなく、社会性や人間性も身に付けてほしいと思っています。初期臨床研修に関しては、今の臨床研修制度になってから12年がたち、卒後臨床研修センターの体制もほぼ出来上がってきました。
当センターでは、さらに専門分野に進んだ医師たちが生涯の職業としてまい進できるよう、それぞれの段階で興味や実力を引き上げることが、私の仕事ですね。大学病院にいると、医学生や研修医と接する機会が多く、教える側と教えられる側の関係性というのをすごく意識するようになります。必要な時に適切な指導ができる、そんな指導医と研修医のコーディネートの役割をセンターは担っています。
Profile
宮崎市出身
大分医科大学を卒業後、宮崎大学医学部第一内科入局。卒後臨床研修センターに所属し、初期研修医の指導にあたる。2016 年7月副センター長に就任。


人間性豊かな医療人を育てたい
医療シミュレーション教育を担当しています。小松先生が立ち上げられた卒後臨床研修センターの1期生でもあり、教育に興味があるならと、当センターの立ち上げの際に、お声掛けいただいたのがきっかけです。
救命救急の分野は、早くからシミュレータを使ったトレーニングが発達していて、私も長年インストラクターを続けてきました。当センターは、コモンな手技から専門的な技術まで練習できる設備が整っているので、医学生から専門医までが有効活用できるよう、アクセスしやすい場所にしたいです。
これから宮崎大学全体で、人間性豊かな医療人を育てたいという理想像を掲げ、一貫した目標で教育ができるように、それぞれの段階での教育プランを組み立てたいと思っています。
Profile
宮崎市出身
山口大学医学部卒業後、宮崎善仁会病院と沖縄県立中部病院でER型救急を学び、ジェネラリストの道へ。宮崎大学救命救急センター設立と同時に入職。


お互いに顔の見える関係をつくっていきたい
3年前に宮崎へUターンして、地域包括支援センターで働き始めました。入院患者の退院促進の全国ワースト3が10年も続いていると聞いて、衝撃を受け、がん患者の退院支援や独居高齢者の看取りなどの困難事例に携わる中で、在宅医療をいかに推進するかということを考えるようになりました。
今回、このセンターの公募に応募したのも、人材育成はもちろんですが、医療安全を目指したシミュレーション教育、在宅医療問題といった、私の看護師人生を通じて考えてきたことが、実証できるかもという思いがきっかけでした。
これからの医療現場で活躍できる人材は、最先端の医療を担う看護師や、専門知識を有する認定看護師などの人材が必要です。逆に訪問看護の現場では、復職を希望する看護師が、今までの経験を生かせる可能性が十分にあります。そのためにも、フットワーク軽く動き回って、お互いに顔の見える関係をつくっていきたいと思っています。
Profile
日向市出身
宮崎大学医学部附属病院で看護師キャリアをスタート。その後、いったん現場を離れるものの、浜松医科大学の大学院で学び、基礎教育の教員となる。岡山大学大学院で卒前・卒後の一貫した医療安全教育を研究。


専門看護の臨床実践と教育を両立したい
看護師時代にプリセプターやチームリーダーとして、新人教育を担当した経験から、看護学生から実際の看護師になるときに、大きなギャップがあることに気が付きました。このギャップを少しでも縮めたいと思って、看護学科の精神看護の教員になりました。
結婚を契機に東京に引っ越し、教職は離れましたが、専門看護師の資格を得るために大学院で勉強していたところ、センター設立の話を聞きました。
ここなら、自分自身が専門看護の臨床実践と教育の両立を図りながら、教育と臨床の架け橋になれると思い、宮崎に帰ってきました。
当センターは、大学の看護学科と附属病院の看護部との中間的な位置付けで、両方に協力しやすくなっています。看護学生の臨床実習では、現場の看護師との橋渡し役になれますし、逆に臨床現場のニーズを学科の教育に反映できるというのも、大きな特長になるのではと考えています。
私自身が臨床と教育を同時に経験しているので、いろいろな視点から学生の進路の相談にも乗れますし、精神看護を得意としていることもあって、医療者のメンタルヘルス対策なども取り組んでみたい分野ですね。
Profile
宮崎市出身
山口県立大学看護学部を卒業後、宮崎大学医学部附属病院に看護師として入職。看護学科教員の経験からリエゾンチームメンバーなど、幅広いキャリアを持つ。


情報交換しやすい環境づくりをしたい
センターは4つの部門に分かれていますが、教員全員が一つの部屋に机を並べており、お互いに情報交換をしやすい環境です。私は、先生方の講義準備やセンターの事務作業をしていますが、メインはシミュレータの管理です。
実習や研修、試験などでシミュレータを準備し、スムーズに利用できるように配慮するのが管理人の役目ですね。このシミュレータ準備と片付けを利用者が行うことが面倒で、使用頻度の低い施設もあると聞いています。
また当センターでは、医学生だけではなく、研修医や医師・看護師も24時間体制で利用できるようになっています。オペ前日の夜中に手技のトレーニングに見える先生もいらっしゃいますね。
10年前はシミュレータ自体も少なかったですから、年間100人ぐらいしか利用者がいませんでしたが、現在は診療科へのシミュレータPRや操作説明会を年に7~8回実施したことで、年間4500人ぐらいの方に利用していただいています。医学生や研修医の成長を目の当たりにできる楽しい仕事です。
Profile
宮崎市出身
宮崎女子短期大学卒業後、教職の道を目指していたが、医学生や研修医との交流の中で医学教育の魅力に目覚める。臨床技術トレーニングセンターの管理人として、学生や研修医の成長を見守るお姉さん。