日向市出身。1998年、宮崎医科大学(現宮崎大学医学部)卒業。関西で初期研修後、2000年に第一内科に入局、腎臓内科専攻。2006年より卒後臨床研修センター専任となり、初期研修医の指導に従事。医学教育改革推進センター准教授を経て、2016年より卒後臨床研修センターのセンター長も兼務しながら、医療人育成支援センターの副センター長に就任。
私が医学教育に携わるようになったのは、10年以上前です。当時、医学生の6年間の教育をサポートする目的で、医学部内に医学教育改革推進センターが設置されていました。
2004年に新臨床研修制度が始まってからは、附属病院の卒後臨床研修センターの開設から間もなく、初期研修医をマネージすることになりました。
医学部と附属病院の別々の管轄で、事務も教員も個別に活動していたのですが、医学部で学生がどんなことを学んでいたのか、研修医として卒後研修に入る前に準備しておくべきことは何か、お互いの現場から知りたいというニーズが、6〜7年ぐらい前から顕在化してきていました。
私だけが両センター兼任の状態で、双方を良く知る立場でしたので、一つの教育ユニットにして風通しを良くし、まとめて問題を取り扱えるようにしたら、スムーズに連携できるのではと考えたのが、このセンターの構想のきっかけでした。
ここ2年ほどは、新専門医制度がメディアをにぎわすようになって、医師養成の3つ目の軸ができてきました。1年延期になりましたが、昨年から基本19領域のプログラム作成や、大学を中心に各研修病院との連携を進めてきましたので、受け入れ側としては、むしろ1年間の準備期間ができたぐらいの感覚です。
しかし、当事者である2年目の研修医には、進路選択の上で大きな影響があったと思います。自分たちが新専門医制度にのっとってキャリアを積めるのか、既存の学会認定の専門医を目指せばいいのか、宙に浮いた状態で、どうもその当事者がないがしろにされたままで議論が進んでいるというのが、腑に落ちないところでもあります。
医師として社会から期待されているのは、医療知識と技術で患者さんの悩みや病気を解決していくこと。それが普通の医師像ですよね。私のように、医学生や研修医のサポートや育成のシステムをつくるのは、医師じゃない人の仕事と捉えられています。医師免許を持った人間が、現場を離れて教育を主軸にすることで、異端視されることもありました。変わった人・馬鹿な人と思われているかもしれません(笑)。
とはいえ、100%教育に入ってしまうと、医師ではなくなってしまうので、今でも腎臓の専門医として、限られた時間ですが透析の患者さんを診させていただいています。臨床2割で、教育が8割ぐらいの割合ですね。
40代は医師として成熟する重要な時期ですが、今の自分は医師としてのスキルの現状維持が精一杯で、これ以上発展させる時間と経験値は、もはや得られないだろうと思います。私自身の気持ちも何度か揺れましたが、教育に軸を置く覚悟を決めたのが去年です。
一番の心配は、この医療人育成支援センターの計画に参画してくれる医者がいるのかということでした。普通の医師ならやらない。けれど、医師でない人に任せていいのかという思いもありました。
現場を知っている医師が、その感覚を持ったまま、医学生や研修医に、その時々で必要なスキルやマインドセットを提言して、教育施策に変えていくことが強みになると確信していました。現場と教育が五分五分ぐらいの割合なら、担おうという医師も出てくるのではないかと、ひそかに期待してはいましたが。
最初は2人で始まった医療人育成支援センターですが、卒後臨床研修センターで一緒だったメンバーを中心に、私と年の近い医師3人の仲間の協力を得ることができました。10年間の活動が実を結んだようで、うれしかったです。
広範で壮大なテーマを扱う部署ですので、期待してくれている方もいれば、成立するのかと、まだまだ疑問視している人もいると思っています。医師と看護師を同じ組織に入れるというのは、全国でも極めてまれなので、医師・看護師の連携も大きなテーマとしています。これが機能していくように、これから頑張りたいです。
集まったスタッフは、もともと医療教育や後進の指導に意欲のある人たちばかりです。現場で活躍している臨床医自らが、医学教育を推進することで、医学生や研修医の将来像の一つになり得るとも思います。
医学教育は、研修医それぞれの個性と格差の中で、標準的なレベルを提示する必要があります。自分で切り開くタイプの人は、そのまま伸ばしていけばいいのですが、受け身の傾向が強い人は、レベルを引き上げる役目を教育者が果たさないといけないなと感じています。
また、情報過多の時代、直に人間と接するということの重要さを、10年前よりも強く感じるようになりました。知識や技能とともに、態度の教育を強化したいと思っています。
医師として職業倫理感は重要です。宮崎大学では、臨床倫理という分野を選択できたり、1年生の系統講義でも取り入れたりという特長があります。
トレーニングセンターの活用もポイントになりますが、知識・技能という目に見えやすいものの裏にあるマインドセットは、おろそかにしないようにしています。
医学部にきて、医師としてこうならなければならないという姿を6年間伝え続けるのが、横断的な位置付けにある私たちこそが行うべきことかなと思います。
宮崎の良さは、田舎であること。学閥が少なく、卒前教育機関は宮崎大学医学部だけですし、研修環境も632床の附属病院があります。
24の大学診療科と55の協力型臨床研修病院が連携し、地域医療から専門プログラムまでを展開しています。医学生から卒後臨床研修、専門医養成に至るまで、大学と市中病院を行き来しながら、同じ病院の同じ指導医の下で学ぶことも可能です。
顔が見える関係で、時間とともに成長を見守ることができる。大学と研修病院の関係が近いからこそできるサポートが、魅力かなと思っています。
県のPR効果もあって、今年のマッチングはサーフィン経験者が多く集まっているんです。早朝4時から6時まで海に入って、7時には出勤し、夕方もだらだら残らずにやることをやってピシッと帰るという、とても健全な生活パターンを持っています。仕事ぶりもとても真面目なので、サーフィンをしながら卒後臨床研修ができる全国拠点にしようという構想もあります(笑)。
サーフレジデント、サーフドクターとして、宮崎に縁もゆかりもない人が、居付くきっかけになればいいなと思っています。研修医からの要望もあるのでサーフボード置き場もつくりたいなと思っています。ちなみに、日向市の金ヶ浜海岸では、毎年、全日本医科歯科学生サーフィン選手権大会が開催されているんですよ。
宮崎大学の医学生に対しては、10年以上ものロングスパンで寄り添い、最適なアドバイスを送ることができます。宮崎という地を選んで良かったと思える環境を提供することも、一方で世界に出ていって、さまざまな価値観の中で医師として生活できるように支援することも、多様性という今の医療ニーズに応えることになります。
もう一つのセンターの取り組みとしては、現場の多忙な指導医をサポートすることです。国の政策により、現場の医師がしなければならないことは、ますます増えてきています。
教育を負担だと感じないように、教えることが自分のためになる、キャリアアップができる、業績評価につながるという方策を見つけたいと思っています。
同じ大学内であっても、例えば専門の違う内科と耳鼻科の医師が出会うことはあまりありません。でも、医学教育では、ある1人の研修医の成長を通じて、その指導医同士が話し合ったりする可能性が生まれます。研修医を媒介にして、従来ならあり得なかった指導医同士の組み合わせで、化学反応が起きるのではないかと期待しています。私が全てを教えるのは無理ですので、それぞれの専門の指導医のポテンシャルを最大限に引き出して、新しい人材育成モデルをつくることが、センターの仕事の醍醐味になるのではと、これからが楽しみです。
宮崎大学医学部が2015年10月に設立した医療人育成支援センターは、臨床医学教育部門・看護実践教育部門・医療シミュレーション教育統括部門・医療人キャリア支援部門の4部門に分かれていて、それぞれに経験豊富な人材をコーディネーターとして配置している。
センター長には宮崎大学医学部長である丸山教授、副センター長を臨床医学教育部門の要となる小松教授が務め、他にも指導医が4人と、教員経験のある看護師2人を擁している。
一つのセンター内で、医師養成と看護師養成、多職種の技能育成と復職支援までに対応し、初期段階の医療人育成からキャリア形成までを統合的に実施することを設立の目的としている。
未来の医療を担う人材育成というゴールを設定して、教育をプランニングするというコンセプトの下、教養・コミュニケーション能力・モラル・プロフェッショナリズムの整った、人間味と個性のあふれる医療人を輩出することを使命としている。
地域医療の充実のためにも、宮崎県全域をフィールドに、次世代の医療人を育成するエコシステムを展開し、全国に先駆け 「宮崎モデル」として新たな医療人育成支援体制の構築が始まった。
医学部6年、卒後臨床研修2年、専門医養成3年の11年に及ぶ医師養成を一気通貫に支援する部門となる。
卒前教育では、アメリカで大きな動きがあった。アメリカでの卒後臨床研修を希望する外国人医師に対して、アメリカ医科大学協会または世界医学教育連盟の認証を受けた医学部の卒業生以外の医師国家試験の受験を認めないとした。
これを契機に、日本の医学部でも国際基準の認証評価制度の導入が進み、2012年には日本医学教育認証評価評議会が発足した。宮崎大学医学部では、2018年の分野別認証評価受審を目前に、特に臨床実習を重視した大幅なカリキュラム再編を行っている。
卒後臨床研修の制度見直しは、2019年に大きな節目を迎える。将来的な人口動態や疾病構造の変遷に対応した、医療提供側の大きな変化が求められる時期で、研修そのものの到達目標やプログラムまで、一体的に見直されることが予想される。
医師としてのスタートとなる卒後臨床研修センターも、医療人育成支援センターに内包されていて、長期的な視野での教育も織り込み済みとなっている。
そして、専門医養成の新専門医制度の導入も待ったなしの状況にある。内科・外科などの基本19領域に加え、サブスペシャリティ領域の2階建ての仕組みが構想されている。これまで各学会で独自に認定してきた、専門医との整合性やガバナンスに問題が残っている状況ながらも、宮崎大学医学部のそれぞれの診療科で、新しい制度に対応した専門医プログラムの準備を進めてきた。
このような変化の中で、卒前・卒後・専門医を継続的にマネジメントできる教育部門を設置し、早期体験実習から臨床実習、研修プログラムの運営を通してのプロフェッショナリズム教育を実践していく。やがて、その教育成果を発信することで、若手医師の確保と地域医療への貢献、医学教育指導者の次世代育成に至るまでのエコシステムを作り上げるというのが、臨床医学教育部門の果たすべき目的となる。
小松氏コメント : 高齢化が進み、医療が社会に果たすべき役割は変化しつつあります。医学部の教育内容も縦割りでは難しくなり、6年間でどのような人材を育てたいかを設定して、教育計画を考える部署が必要になってきました。そして、医学生を育てるだけではなく、医学生後半の臨床実習から卒後臨床研修の2年間へとつなげる目標を設定し、成長を8年間持続させようと。
さらに、臨床研修修了後は専門領域を選んでいくことになるのですが、宮崎においては若手医師の確保という命題がありますから、キャリアパスを明確にし、卒後臨床研修2年で経験した学びが、専門医養成3年でも生かせるように支援します。その5年間が見えていると、宮崎で安心して医師としてのキャリアを積もうという人も、増えるのではないかと思います。
看護師の卒前・卒後教育を一貫して行うための教育企画と支援を目標とする部門で、大学医学部の看護学科と、附属病院の看護部とを結びつける役割を担っている。
学生の臨地実習のフィールドの拡大、医療シミュレーション教育統括部門との連携による新人看護師のトレーニング強化、卒業後の県内での就職あっせんも視野に入れている。
また、コミュニケーション教育や医療安全・医療倫理、フィジカルアセスメントや臨床推論の基本的分野においては、医師養成とも共通している部分が多いため、教育資源やメソッドの共有を積極的に推進している。
医師との連携や共通意識を早期から持たせることで、実地におけるギャップをなくす効果も期待できる。
小松氏コメント : 看護学科の半分近くの学生が、県外に流出しています。
看護教育という面では、卒前の大学4年間と、卒後の病院での看護師養成が連動していない場合が多いのではないでしょうか。看護学生の場合は臨地実習といいますが、現場の看護トレーニングを受けて、そのまま新人研修に入ることができればベストです。多くの看護学科卒業生が、県内の医療機関に残るようなフローをつくることが、当面の目標です。
宮崎では、県立看護大学と宮崎大学医学部看護学科が、看護師養成の軸であることは間違いありませんので、将来的に両者が機能連携できるお手伝いができればと思います。
教育は現場でしかできませんが、当センターは、教育企画の投げかけと、現場からの改善要請をもらって調整をする部署という位置付けになります。
医療安全と技能教育のニーズの高まりに応じ、医療シミュレーション教育に注目が集まっている。宮崎大学医学部では、2009年に臨床技術トレーニングセンターを開設。現在は、各診療科それぞれで保有していた医療シミュレータを一元管理している。
医学生の臨床実習、研修医のオリエンテーション、薬剤師のフィジカルアセスメント研修、女性医師・看護師の復職支援実習、医学部オープンキャンパスの体験学習など、活用の場を広げて普及に努めてきた。その結果、年間4500人の利用者まで増加している。
2015年には「基本診療・技能シミュレーションルーム」「高度医療シミュレーションルーム」「聴診技法トレーニングルーム」「看護ケアシミュレーションルーム」「カンファレンスルーム」と5つの部屋に拡充された。
今回、医療人育成支援センターの一部門として組み込まれ、大学だけではなく、県内医療機関や医療者に開かれた公益性の高いトレーニングセンターとしての展開をもくろんでいる。
小松氏コメント : 十数年前は、医師免許を取って、初めて患者さんに注射の針を刺すというような状況でした。それでは、医療安全上も技術上もよろしくないということで、シミュレータを使った技術トレーニングが推奨され、機器も開発されてきました。ここでは、採血や超音波、内視鏡などの専門的な検査、救急処置など、40種類以上もの機器がそろっていて、基本手技から専門手技までを体系的に学ぶことができます。
医師のみならず、看護師や多職種のスタッフまでが活用できるようにしていますので、どんどん利用していただきたいと思います。
医師や看護師の将来を見据え、入学時から自分自身のキャリアに向き合う場を用意するのが、医療人キャリア支援部門の役割となっている。これまでにも、医学生5、6年次のオリエンテーションでは、臨床研修・専門医取得・大学院進学・国内外への留学などの進路を学生へ示してきた。さらに、臨床と研究のバランス、働く場所やライフスタイルの選択など、医師と看護師の多様なキャリアパスを提示し、経験豊富な講師陣による講演なども企画している。
宮崎大学のキャリアデザインサポート委員会や、清花アテナ男女共同参画推進室とも連携して、親身に寄り添うキャリア支援を目指している。
小松氏コメント : 医学生や研修医といえども、一人の人間ですので、若い人の就職活動と同様な面もあります。どこで医師として生きていったらいいのか、より良い職場環境を求めることは、当然考えるでしょう。宮崎で一生を過ごすのか、都会に出てみたいのか、女性なら妊娠・出産のタイミングなど、生活の不安や悩みは誰もが持っています。
初期の医学教育の中でも、キャリアデザインを考える機会を設け、ワークライフバランスとプロフェッショナリズムをどう考えたらいいのかなど、画一的な価値観に縛られず、人それぞれあっていいんだよ、というのを分かってもらえたらいいなと思っています。